バース・ミッション

<ファイナル・ハート続編>   *2007.7.25〜9.15*

〜絶望こそが生まれた理由(わけ)。
そしてそれが使命(バース・ミッション)だった。〜      

<< 10*風 | main | 12*黄ランドウの原 >>
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

- | | - | -
11*イーラウ
「どうした?」
 力尽きてうつぶせたカリフのその伸ばした手は、大きなてのひらににぎりしめられた。
 あたまから頭巾をかぶった背の高い老人が、カリフの伸ばした手を塀の外から取ってひざまずいていた。
「怪我をしているのか?病か?家の者は?」
「・・たすけ・て・くれ・・。」
 もうろうとしていたカリフだったが、かすれた声で訴えた。
 老人はまだ人っ子ひとりいないあたりを見回すと、年齢に似合わない身軽さですばやく
柵をよじ登ってひらりと敷地に降り立った。
 カリフは最後の望みをかけて振り絞るように告げた。
「・・ここから・・出して・・くれ。」
 カリフの傷に尋常でないものを感じた老人は、柵の高さを見て一瞬思案したが、決意のこもった声で応えた。
「少し耐えろ。柵を超える。」
 老人はカリフを背負った。カリフは激痛をこらえて叫び声をあげながら老人の首根っこにしがみついた。
 柵を超えた。老人は自分のマントでカリフをくるむと、もう一度背負い直して港の方へと向かった。
 カリフは痛みに耐えかねて気を失った。

 うつぶせのまま目覚めたのは港町の一隅の小さな施薬院だった。
「痛い・・。」
 つぶやくカリフの声を聞いて振り返った人物が老人を呼んだ。
「気がついたよ。イーラウ。」
 うすぼんやりとした視界に見覚えのある老人が映った。
「ああ、すまないベク。・・どうだ。だいじょうぶか?」
 イーラウと呼ばれた老人は目の前に座ってカリフの顔を覗き込む。
 カリフはまばたきした。
 そんな目を久しぶりに見た。誰だったろう?
(イリュ・・)
「ひどい怪我だ。しばらくは動かせまい。いったいどうしたんだ。鞭の傷じゃないのか?」
 丸い顔をして髭をはやしたベクという男がつぶやいた。
 イーラウは無言でうなずいた。
「わたしは一度舟で島に帰る。会う者がいる。しばらく預かってくれ。また来る。」
 そうベクに告げると、イーラウはカリフに聞いた。
「名前はなんというのだ?」
「・・カリフ・・。」
「カリフ、ベクは信頼できる。腕もいい。しばらくここで養生するんだ。わたしはまた来る。」
 カリフはうなずいた。

 施薬院の施術師であるベクは毎日傷に塗り薬を塗り、当てる布を取り替えて手当てしてくれた。
 その娘の小さなロカは温かい食べ物をうつぶせたままのカリフに運んで小さな木杓子で口に入れてくれた。
 冷えきって野獣のようだったカリフの瞳に、少しずつ微かな光が灯ってきた。
 ロカはカリフの鋭い瞳を少しもこわがらなかった。無心にカリフを見て笑う。
 カリフがロカの笑顔を見てひとすじ涙をこぼすと、不思議そうにその涙を指でふいてくれるのだった。
 カリフがようやく上を向いて眠れるくらいに回復した頃、イーラウがやって来た。
 暖かく包み込むような深い瞳をして微笑む。
「年は15くらいか?」
 カリフはうなずいた。
「つらい想いをしてきたな・・。話したくなければ何も話さなくともいい。話したくなったらいつでもきこう。」
「・・あなたは。・・どういう人なんですか?」
 ちょうど塗り薬を持って来たベクが笑いながら言った。
「イーラウを一言で説明するのはむつかしいな。彼は何にも属していないし、何も持たない。けれどもあらゆる人間のよき隣人だ。」

 背中の傷がだいぶ癒えて、カリフはベクの手伝いをするようになった。
 だが、ほとんど口を開かず、笑うこともあまりなかった。
 ベクはからだの傷以上にカリフのこころが痛み、荒み切っていることを感じた。
 イーラウがまた島からやって来た。
 ベクはカリフが黙々と働く様子を見せた。
 イーラウはうなずいた。
「カリフ!」
 片手を上げてイーラウはカリフに微笑みかけた。
 カリフは会釈した。
「どうだね。ベクの仕事を手伝っているそうじゃないか?」
「・・。」
 カリフは返事をしない。
 眉間にしわを寄せて内側のかっとうと闘っているのが見てとれた。
「君は今の仕事に喜びを見出せないんだね?」
 小さく首を振ったが、自分の内に巣食うもつれた固まりのことをカリフは言葉にすることができなかった。
 イーラウはカリフを座らせると、カリフの肩に自分の大きな手のひらを置いた。
「かまわない。・・かまわないんだ。それで。君はまだ自分の痛みに折り合いがつけられていない。けして無理はするな。」
 カリフは思いがけないイーラウのあたたかい言葉とまなざしに、閉ざされた心からこぼれ落ちるように思わず一粒の涙を流した。
 つぶやくように言葉を口にした。
「・・ベクやロカはほんとうに人想いだ。・・心から人のことを想い、世話をしてるのがわかる。・・だけど。オレは・・。」
 イーラウは黙って待った。
 無心に、でも温かくただそこにいてカリフのすべてを受け入れていた。
 イーラウがこの世の終わりまで待ってくれることを本能的に感じ取ったカリフはついに口を開いた。
「・・世話を受けるひとたちがうらやましくて、嫉妬すら感じてしまうんだ。・・オレはここに来るまでこんなに人に大事にされてこなかった。見捨てられて生きてきたんだ。不公平だ。・・だから人が病いに苦しんでいたって、どうでもいいって思えてしまうんだ。」
 カリフはそう言って唇をかみしめて泣いた。

Story | 12:29 | comments(0) | trackbacks(0)
スポンサーサイト
- | 12:29 | - | -









http://birth-mission.jugem.jp/trackback/11

CALENDAR
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  
<< November 2017 >>
PROFILE
NEW ENTRY
CATEGORIES
ARCHIVES
LINKS
OTHERS
RECOMMEND

ボエム
ボエム (JUGEMレビュー »)
ディープ・フォレスト
リトルターン
リトルターン (JUGEMレビュー »)
ブルック ニューマン,リサ ダークス
ドリームキャッチャー
ドリームキャッチャー (JUGEMレビュー »)
シークレット・ガーデン
エデン
エデン (JUGEMレビュー »)
サラ・ブライトマン,ニュー・カレッジ・オックスフォード・クワイアー,イングリッシュ・ナショナル・オーケストラ,フランク・ピーターソン,ポール・ベイトマン,カリエ,フェラウ
ザ・シー・オブ・ドリームス
ザ・シー・オブ・ドリームス (JUGEMレビュー »)
デイヴィー・スピラーン,シネイド・オコーナー
SPONSORED LINKS