バース・ミッション

<ファイナル・ハート続編>   *2007.7.25〜9.15*

〜絶望こそが生まれた理由(わけ)。
そしてそれが使命(バース・ミッション)だった。〜      

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2*カリフ
 陽も高くなった頃、カリフの声で目を覚ました。
「おい。オレは出かける。」
「どこ行くの?」
「今日の稼ぎがねえと明日のおまんまが食えねえだろ。」
「・・。」
「食ったらどこへでも好きなところへ行け。服は外だ。」
 カリフはそういって扉を開けて出ていった。
 テーブルには角ヤギのミルクと、マムが乗っている。
 エナンはむさぼるようにそれを頬張った。
 一息つくと表に出た。
 自分の擦り切れた服が洗って干してあった。
 午後の日差しはきつく、すでに乾いている。
 エナンはそれを身につけると路地を出た。出たところにいた中年の女に問いかけた。
「カリフを知らない?」
「カリフならまた賭博場だろ。」
「それどこ?」
「骨董街の奥だよ。」
 走ると髪に風があたって気持ちいい。
 思い出す限りずいぶん頭を洗っていなかったエナンは、頭の軽さに思わずステップを踏んだ。カリフがごしごし洗ってくれたその大きな手のひらの感触を思い出しながら。

 賭博場は一見ただの酒場だ。だが、その奥の階段を降りた地下の小部屋では昼でも賭博が行なわれていた。
 エナンは男たちに紛れて階段を降りた。階段の途中の手すりからその部屋全体が望める。そこに座り込んだ。
 カリフはテーブルの向こう側で意気揚々と銀貨を積み上げていた。
 しばらくやりとりを眺めることにエナンは時を忘れた。
 見ているとカリフは前半の調子のよさとは裏腹に、その銀貨の山はみるみる崩されていき、それにつれてイライラと険しい顔をするようになった。
 エナンの位置からは相手のカードが丸見えだ。その相手のカードの絵柄がなんだとカリフが難しい顔をし、なんだと笑顔になるのかがだんだん分かってきた。
 カリフが笑った時と同じ絵柄のカードがまた現れた。エナンはすばやく階段を降りて大人達の間をすり抜けカリフのそばに寄ると、袖を引いてカリフだけに聞こえるよう小声でささやいた。
「あいつ、蜘蛛持ってる。」
 一瞬なんのことか分からなかったカリフだったが、エナンの顔を見てすぐに悟り、最後にありったけの銀貨を賭けて勝負に出た。
 カリフは勝った。
「おまえ、やるじゃないか。」
 カリフは上機嫌だった。エナンに新しい服と黒糖の菓子を買ってくれた。
 エナンはうれしかった。服を買ってもらったことよりも、食べたことのない黒糖菓子が旨いことよりも、カリフがうれしそうな顔をするのがなによりうれしかった。
 
 カリフはどこか冷めたところがある。
 だから、しらふの時はよけいなケンカはしなかった。
 けれども酒が入った時はそうじゃなかった。腕っぷしが強いことをエナンは早い時期に知った。
 カリフは少しでも金が入ると酒場に行ってしまう。
 いつまで経っても帰らないカリフを探して、ある晩、夜も更けた街をエナンは酒場に向かった。案の定、酒場で悪仲間と深酒をしているカリフを見つけた。
 店に入ろうとして、自分の名前が耳に入り、エナンは足を止めた。
 仲間の男が言っていた。
「・・おまえらしくもねぇ。エナンっていったか?どうするんだ?あんな小僧の面倒なんかみてよ。」
 色の黒い別の男が笑いながら言った。
「売り飛ばしゃ金になるじゃねぇか。あと2、3年もすりゃもっと高く人買いに売れる。なぁ、そうだろ?」
 その時、黙って酒を飲んでいたカリフは急に立ち上がると笑った男の胸ぐらをつかんで殴り飛ばした。
 止めようとしたもうひとりの男も殴り、酒場は物が壊れる音と悲鳴とで騒然とした。
 立ち上がった男たちと、酒場の他の連中とも揉み合いになり、気がついたら4、5人の男を倒して、カリフはふらつきながら店を出ていった。
 店の女が、笑った男に告げた。
「あんたが悪いよ。カリフは人買いに売られたことがあるんだ。」
 店の外から一部始終を見ていたエナンはカリフの後を追った。
 月明かりの下、カリフの大きな背中を見つめながら、エナンは後ろを歩く。
 しばらく歩いていると、ふいにカリフが振り返った。
「何ほっつき歩いてる?」
「・・人買いに売られたことがあるの?」
 カリフは答えずにまた前を向いて歩いた。
「・・こわかった?」
 立ち止まって急に振り返るとカリフは両手を拡げて吠えた。
「うおおおー!!」
 エナンは驚いて飛び上がった。
「くっくっくっく・・。」
 カリフが笑うのを初めて見た。
 もう一度吠えながらカリフはエナンを追ってくる。歓声を上げながらエナンは逃げまどった。
 ふたりの影は月に照らされて、笑い声とともにいつまでも踊っていた。
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