2008.07.25 Friday
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バース・ミッション<ファイナル・ハート続編> *2007.7.25〜9.15*
〜絶望こそが生まれた理由(わけ)。 そしてそれが使命(バース・ミッション)だった。〜 2007.07.27 Friday
カリフは盗みを働いたり、博打で稼いだり、すりや置き引き、詐欺、ゆすりたかりとまともな仕事は一切せず、その日暮らしをしていた。
エナンはそんな仕事ばかり覚えていった。 しばらく暮らすと、エナンはカリフが酒を飲むとちょっとしたことで荒れることがわかった。そんな時によけいな口を聞くと、殴られてしまう。 カリフは何かを忘れようとして酒を飲む。だが、その酒はむしろその何かを思い出させていらいらを募らせるようだった。 それでも、エナンは酒場でエナンのことで男を殴ってくれたことを忘れなかった。あの晩の楽しかったカリフも。 半年ほど前のことだ。 カリフは酒場から夜遅くもどると、翌日は昼まで寝た。そして午後になると今度はエナンを使ってゆすりをすることを思いついた。 街はずれの街道筋で、馬や馬車に引かれたふりをしてその相手から金を巻き上げるのだ。 エナンの服をあらかじめアカシの実で赤く汚し、顔にも血のように見せかける。 通りかかった馬車に大きめの石を投げつけてカリフが止める。そして息子を引いた、どうしてくれると大袈裟に振る舞うのだ。 ひとりは逃げた。ひとりは体格がいいのをかさに来てかえって開き直って払わなかった。 カリフは面倒になって相手を見送った。 「案外うまくいかねぇな。薄情なやつらだ。」 もうあきらめようと思った陽も暮れかかった頃、馬の蹄の音がした。 「エナン、これで今日は店仕舞いだ。うまくやれ。」 カリフが投げた石に驚いて馬は前足を高くあげていなないた。 マントを被った乗り手はその勢いで馬から落ちた。 「ちっ。落ちやがった。」 カリフとエナンは様子をうかがいながら落ちた人間のそばに近づいていった。 マントが脱げて美しい長い髪がこぼれた。 「エントナ!」 馬を呼んだ。馬はおとなしく乗り手のそばにもどってきた。 「大丈夫ね?」 馬の鼻をなでながら、彼女は振り返ってそばに立つカリフとエナンに気がついた。 エナンの姿を見て驚いて立ち上がった。 「エントナとぶつかったの?」 カリフはその美しい女性に思わず言葉を失った。 エナンはカリフに替わって馬を指差して言った。 「その馬に蹴飛ばされた。」 「大変!施薬院へ行きましょう!」 「・・それにはおよばねぇ。」 カリフはやっとそれだけつぶやいたがエナンは言った。 「施薬院へ行くお金をくれれば自分で行く。」 彼女はふと何かに気づいたように黙り、そしてかすかにうなずいた。エナンの頬を両手で包むと、にっこりと微笑んだ。 「待って。」 そういって懐から首に下げた袋を取り出して、中から銀貨を1枚つかむとエナンの手ににぎらせた。 「少ないけど。」 そう言ってエントナにまたがると、カリフに会釈して走り去った。 「やったね!うまくいったよ!」 エナンははしゃいだが、カリフはうかぬ顔をした。 「どうしたの?」 「ばれてる。・・おまえをかわいそうに思って恵んでくれたんだ。」 そう言って歩き出した。 「帰るぞ。」 エナンはカリフがうれしそうでないので黙った。それでも、うつくしい白い手の感触を思い出すと胸に小さなあたたかい灯りが灯るようだった。銀貨をにぎりしめた。 「しばらくおまえはおとなしく留守番してろ。」 「今度は何の仕事?」 「用心棒だ。子供の出る幕じゃない。オレがもどるまでこれで食ってろ。」 そう言ってカリフは銀貨を3枚テーブルに置いて家を出た。 今度カリフが雇われたのは街の金持ちのせがれの用心棒だった。 そのせがれはあまり評判が良くなかった。親の金をかさに来て、あちこちでいさかいを起こし、敵が多かった。その敵から身を守るために親が雇った用心棒だった。 カリフは正義がどうだとか、そういうことには一切興味がなかった。自分の自由が奪われない程度にとにかく金が稼げればなんでもした。 カリフを紹介したのは酒場の主人だった。 金でいうことを聞き、腕っぷしの強い男としてカリフは紹介された。 「イサウぼっちゃんだ。頼んだぞ、カリフ。」 カリフはうなずいた。 イサウは取り巻きたちとカリフを品定めするようにじろっと見つめるとにやりと笑って言った。 「来いよ。どんな腕っぷしか、オレの取り巻きが試してやるよ。」 街はずれの街道沿いまで来た。 カリフはふと、思い出した。 (ここは、あの馬が通ったところだ・・。) カリフとエナンがエントナの主人に出会ったところだった。 (馬の蹄が響いてきたっけ・・。) 思い出している頭に、馬の蹄の音が響いてきた。 (そう、こんな風に・・。) カリフは振り返った。 振り向いたカリフの目にエントナがマントを羽織った主人を乗せて走って来るのが目に入った。 (何!?) 「おい!」 イサウの興味は走ってくる馬の方に移った。 取り巻きたちはエントナの前に立ちはだかって、その足を止めさせた。 「いい馬に乗ってるな?ちょっと乗らしてくれ。」 手綱を引いた乗り手は首を振った。 「エントナはわたし以外の言うことは聞かない。」 声が思いのほか美しいのにイサウは気がついて顔を覗き込んだ。 「いい女じゃないか!ちょっと降りて顔をよく見せろ!」 取り巻きはエントナの手綱を取って押さえ込み、女性の腕をとって引きずり降ろし、マントを取った。 カリフが声を失ったように、イサウたちも言葉を発するのを一瞬忘れた。 「馬もいいが、こいつは拾いものだ。気に入った。連れてけ。」 「何をする。離せ!」 叫んだが多勢に無勢、女性は森の中へ引きずられていった。抵抗する彼女をイサウは殴った。その時、それ以上殴ろうとするイサウの手を取って止めた者がいた。 カリフだった。 「オレの試しはどうする?」 「おまえなんかどうだってい・・」 言い終わらないうちにイサウは殴られて飛ばされた。 取り巻きたちが一斉にカリフに殴りかかったが、同じだった。みな、あっという間に地面に転がってうなった。 「おまえはロクな取り巻きをつけてないな。もっと早く用心棒を雇えばよかったんだ。」 カリフは面白くなさそうに、つぶやくように口にすると振り返った。 鳶色の瞳の白い女性は驚いた顔をした。 「あなたはあの時の・・。」 カリフは黙って女性のそばにエントナを引いていった。 「あの時の子は?」 「エナンなら元気だ。」 「ありがとう。わたしはイリュといいます。あなたは?」 「・・カリフだ。・・どこの者だ?あまり街はずれをひとりで走るな。」 イリュは答えずに笑ってうなずいた。そして咳き込んで少し血を吐いた。殴られたせいだ。 「オレの家で少し休むか?そう遠くない。エナンもいる。」 そう言ってカリフはイリュが止めるのも聞かずエントナにまたがろうとしたが、エントナは抵抗してカリフを振り落とした。 「ごめんなさい・・。」 「イリュの言う通りだ。こいつはたいした玉だ。」 カリフは腰に手を当てながら苦笑した。 イリュは身軽にエントナにまたがると、白い手を差し出した。 その手を取ってカリフはイリュの後ろに飛び乗った。 エントナは走り出した。 COMMENTS
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