バース・ミッション

<ファイナル・ハート続編>   *2007.7.25〜9.15*

〜絶望こそが生まれた理由(わけ)。
そしてそれが使命(バース・ミッション)だった。〜      

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42*生と死
 それからカリフは施薬院の床からしばらく起きあがれなかった。
 傷の深さもあったが、長年の疲れも一気に出たような寝込み方だった。
 ナランが毎日のように通ってきて面倒を見てくれた。
「じいちゃんが早くうちまで歩いてこいって言ってる。」
 そう言ってナランはカリフを元気づけた。
 カリフはニライの顔を思い浮かべて少し笑った。
 だがようやく起きあがれるようになっても、寝台の上で何時間も外をただ眺めているカリフをナランは心配した。
 カリフがその日も黙って窓の外を眺めていると、ニライの声がした。
 ナランがニライをおぶって部屋の入り口に立っていた。
「おまえの間抜け面が見れんと面白くないわ。来てやった。」
 カリフは唇をそっと笑ませた。
「どうした?」
 ニライはいつものように面白そうに笑っている。
 カリフはニライがいつも通りなので可笑しそうに笑った。
「いや。ちょっと疲れたんです。休んでみただけです。」
「おまえ、死にたかったのか?」
 カリフは一瞬黙ったあと、灯るように笑んだ。
「よくわかりますね。」
 ニライはカリフの心をはるか遠く見透かすように笑わずに言った。
「生まれた時から死にたかったんだな。・・残念だな。死にはぐった。」
 カリフはそれを聞いてからだを緩ませるとニライの方に向き直った。
「どうして生かされたんでしょう?」
「役目を終えるまでは死ねん。」
 カリフは瞳を見開いた。
「なぜそれを言います?」
「当たり前のことを言うたまでじゃ。」
 カリフは黙った。
「おまえはひとつのひとのこころを身を持って知った。あれは愛とは言えん。だが、それもひとだ。」
 カリフはうなずいた。
「キリにわたしはゆく道が違うと言った。だが、今わかるんです。キリとわたしは違わない。同じものがあった。それは孤独と恐怖から来てる。何を怖れているとあなたは言いました。生きることです。ただそこから逃げたいそういう想いです。そのことから目を逸らしなにかで埋め合わそうとした。キリはわたしだ。」
 ニライはうなずきながら続けた。
「死はだれもが怖れる。だがな、自分の役目の重さをひとはほんとは知っていて、その重みに耐えかねてむしろ“死を望む”という心もある。たしかにその心と人を傷つけることは一緒じゃ。どちらもほんとうに生きることを怖れてのこと。」
 ニライは笑った。
「生きることは重い。当然じゃ。感じるがいい。そりゃおまえの自由じゃ。すべて感じろ。だが、役割を終えるまでは死ねん。それもひとだ。」
 ニライはカリフがじっと聞いているその横顔を見つめて笑むとさらに言った。
「だがな、面白いぞ。満たしようもないほどの孤独な生き物じゃからこそどういうわけか人を満たしたいという想いもひとの本能としてある。おまえにもある。残念じゃがな。信じなくともいい。それはおまえが望まずともおまえを生かすじゃろう。あきらめろ。」
 そう言ってニライはいつものように心底可笑しそうに笑ってみせた。
 カリフの肩は大きくふるえた。ニライとともに笑っていた。
 それからカリフの回復は、目に見えてみるみる早くなった。

 キリはカリフに怪我を負わせた罪で獄労働4年の刑に服した。
 サンコスは議員を辞めると言ったが、カリフがそれを押しとどめた。
 サンコスは議会でひとにやじを飛ばすようなことはなくなった。
 カリフは怪我の後遺症もあって、馬車を使うようになった。
 何事もなかったかのように仕事に復帰した。
 仕事をしている限りは以前と全く変わらないかのようだった。
 だがその実、弓を引くまでの回復にはいたっていなかった。その分をしばらくは竜笛を吹くことで補った。
 その笛の音が、以前よりも力強くひろびろとひらけて響くようになったのを、人々は噂した。
 笛の音がひらくのに比例して人々の中に混じってはなつ笑顔にもあかるさが増した。
 カリフは精力的に仕事をこなした。
 そうして議員の仕事に打ち込みながらさらに2年ほどの月日が過ぎていった。
 月のきれいな晩だった。
 遥かに切なく響き渡るカリフの笛の音を、月光に照らされながらたたずんで聞く人影がいた。
 それは幾日か続いた。
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