バース・ミッション

<ファイナル・ハート続編>   *2007.7.25〜9.15*

〜絶望こそが生まれた理由(わけ)。
そしてそれが使命(バース・ミッション)だった。〜      

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43*オアカ
 カリフはいつものように仕事を終えて馬に鞭をふるった。
 その時、馬の前に走り込んできた女がいた。
「市まで乗せな。」
 女は怒鳴った。
「早く!」
 カリフが答えるよりも早く女は馬車の荷台にもぐり込んだ。
 ゴドワナの中心街をしばらく行ってから、カリフは女に話しかけた。
「追われてるのか?」
 被っていた布を上げると女は答えた。
「いや。」
「・・。」
「こうしないとあんたはあたしを乗せなかったろ。」
「なんのまねだ。」
「あんたと話がしたかったんだ。」
「話?」
「あたしはオアカ。」
「・・。」
「肌が浅黒くない。北からきたのか?」
 オアカは聞く。
「そうだ。」
 市に着いた。オアカは身軽に馬車から飛び下りると、笑った。
「また。」
 そう言って雑踏に消えていった。
 カリフはしばしの間オアカが消えた方を見送っていたが、馬車をそのままそこに止めていつものように市で買い物をした。
 パキと魚をぶら下げて家の階段を昇る。
 中へ入ろうとして驚いて声を上げた。
「オアカ!」
 オアカは鍋をかきまわしながらにっこり笑った。
「食べるかい?」
「なぜここにいる?」
「あんたが魚を買っている間に先に来て待ってた。もうすぐスウプが出来るよ。」
 カリフはそこで突っ立ったままオアカの顔を見つめていた。
「なぜ?」
「言ったろ?あんたと話がしたかったんだ。」
「なぜ?」
 重ねていぶかしげにカリフは問うた。
「話がしたいのに理由なんかいるのか?」
 黒い髪をうねらせて、つややかな褐色の肌をした印象的な大きな瞳のオアカは当たり前のような顔をしてそこにいた。
「今まで見たことがない。ゴドワナの人間なのか?」
「いや。あんたと同じ流れ者さ。」
「家族は?」
「小さい頃からいない。」
「・・そうか。」
 そうつぶやいて、やっとカリフは腰を降ろした。
 カリフはナイフでパキを割った。
 オアカが聞く。
「どうしてゴドワナへ?」
「乗った船がゴドワナ行きだった。オアカは?」
「さあ。ただなんとなくね。」
 ふと、顔を見合わせた。なぜかその瞬間ふっと心の垣根がなくなった。
 カリフは自分でも不思議な想いを抱いていた。オアカと初めて会った気がしなかった。
 カリフとオアカはその晩語り明かした。
「生まれは?」
「ここから船で何日も行ったところにタスチフというところがある。そこからさらに何日も歩いた白銀の峯の村だ。」
「白銀?」
 カリフは気づいて言った。
「雪を見たことはないのか?」
「ない。なにそれ。」
「水が凍って白い粒となって空から降ってくる。ひらひらと。きれいだ。わたしが生まれたところはとても寒い。」
「ふうん。あたしはここより南で生まれた。津波を知ってる?」
 カリフは首を振った。
「海が陸へ押し寄せてくるんだ。それであたしの村は全滅した。まだ小さい頃。家族は?」
「疫病でみな死んだ。わたしも小さな頃からひとりだ。」
「ずっと?」
「いや。9年ほどはイーラウという人と暮らしていた。わたしの師だ。親とも思ってきた。イーラウが亡くなって、それで旅立った。」
 カリフが自分のことを人にこんなに語ったのは生まれて初めてだった。

 翌日の夕暮れ、仕事を終えて帰るカリフは不思議な想いにとらわれていた。
(夕べは夢を見たんじゃないのか?)
 だが、オアカはそこにいた。
 次の日もその次の日も、オアカはカリフの帰りを待っていた。
 オアカはカリフが竜笛を吹くことを望んだ。
「あんたの竜笛にはたましいがある。あたしはずっと聞いてたんだ。」
 オアカは笑った。
 カリフは竜笛をはずした。
「ずっと?」
 オアカはうなずいた。
「南から歩いてきてゴドワナに着いた。月のきれいな晩だった。竜笛の音に引かれてここまできた。この家の下でずっと聞いてた。朝になって近所で聞いたんだ。誰が住んでいるんだ?って。」
 カリフの目は優しく澄んだ。
「この笛が好きか?」
「ああ。なんだか泣きたくなるね。」
 カリフは竜笛の希望に満ちた切なさを愛していた。
 オアカが泣きたくなるというのがよく分かった。自分もそうだ。だからカリフは竜笛を吹く。
 イリュともフェドとも似ていない。
 だがオアカはカリフの持つ切なさと、同じものを持って流れてきたカリフのたましいの片われだった。

「オアカ!」
 カリフが呼ぶとオアカは子供のような笑顔を浮かべて岩影から顔を出した。
「あったよ!」
 オアカが掲げてみせたのは磯の香りのする鮮やかな緑の海草だった。
「これが旨いのか?」
「そうさ。あたしのいたところではこれをスウプにして飲めば風邪も引かないと言われてた。ゴドワナではあまり食べないんだね?」
「そうだな。はじめてだ。だけど、いい香りだ。」
 オアカはうれしそうに笑った。
「ゴドワナの海岸線にはあまりないからだね。」
「なんというんだ?」
「ケルパ。海の神のひれと呼ばれてる。今夜食べよう。」
 ふたりはどちらからともなく岩に座り、並んで海を眺めた。
 黙り込んだカリフを見て、オアカは聞いた。
「何を考えてる?」
「海を見ると思い出す風景がある。」
「どんな?」
「美しい黄色い花が一面に咲く小さな島だ。」
「暮らしてたんだ。イーラウと。」
 カリフはうなずいた。
「黄ランドウを知ってるか?」
 オアカは首を振った。
「小さな花だ。だが、一面に咲いていると、夢のような景色だ。そこでイーラウはわたしのすべてを受け止めてくれた。いつかオアカにも見せてやりたい。」
「何があったんだ?」
 いきなりオアカはそう言ってカリフを見つめた。
 カリフはそのオアカの思いがけない真直ぐな瞳の奥の方にある切ないほどの何かに打たれた。イーラウ以外に口にすることのなかったことを思わず洩らした。
「・・わたしは子供の頃、人を殺したことがあるんだ。」
 オアカは何も動じなかった。ただ真直ぐカリフだけを見つめていた。
 カリフは肩の力を抜き、つぶやいた。
「イーラウ以外、こんな風に人に言ったことはなかった。」
 オアカは言った。
「あたしになら何を言ったっていい。ケルパに誓ってあたしはあんたの魂を信じる。過去に何があろうと、あんたはその笛でこれから人を救うんだ。その笛の音の色が出来上がるには、あんたの今までのすべてはなくてはならないものだったんだ。」
「そう思うのか?」
「救われた者が言うんだからまちがいない。」
 オアカはゆるぎない瞳でうなずき、美しい笑顔を浮かべた。その笑顔は夕陽に照り映えて、黄金色に光り輝いていた。

 家があり、その家でオアカが待っている。
 語りながら夕食をともにする。話は尽きない。
 そんなささやかなことが、カリフの心の奥底の、渇いていたところに急速に沁み渡っていった。
 褐色の肌はうつくしく、黒い瞳は表情豊かにくるくる動く。
 家族のいない今までを過ごしてきたのに、オアカは明るかった。それがカリフはまぶしかった。
 そしてケルパに誓って自分の魂を信じてくれた。そのことでカリフの魂はふくらみを持ち、芯深くからあたためられていた。
「オアカ、一緒になろう。」
 その晩、カリフはオアカを抱き寄せた。
 生まれて以来埋めることの出来なかった空洞をようやく満たすような温もりを腕の中に感じていた。
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