バース・ミッション

<ファイナル・ハート続編>   *2007.7.25〜9.15*

〜絶望こそが生まれた理由(わけ)。
そしてそれが使命(バース・ミッション)だった。〜      

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44*絶望
 だが、満ち足りた眠りはいきなり破られた。
「この野郎、殺すぞ!」
 眠っていたカリフをいきなりいかつい男が殴った。
「オアカ!」
 カリフはオアカを守ろうとして飛び起きた。
 その時男は前のめりに崩れた。
 オアカが鍋で男の頭を打っていた。
 だが一瞬気を失いかけた男はすぐに頭を振って、怒りの鉾先を変えるとオアカを殴り飛ばした。
「このあま!」
 オアカは運悪く柱で頭を思い切り打ち、細い声を上げた。
 オアカは頭から一筋血を流してうめいた。
「ちっ。」
 男はふらつきながら家を出て行った。
 カリフは殴られた頭をおさえてよろめきながらオアカのそばへと寄った。
「オアカ・・。だいじょうぶか・・。」
 オアカは瞳から涙をこぼした。
「・・あたしは・・死ぬのかな・・?」
「だいじょうぶだ。死にやしない。しっかりしろ。」
 オアカは泣きながら言った。
「南で・・あの人と暮らしてたんだ。だけど逃げた。ごめんよ。あんたにまで。」
「・・オアカ。もののように扱われる相手といるのはよせ。わたしと暮らそう。」
 オアカは泣き笑いしながら言った。
「・・あんたの竜笛を聞いて、生き直そうと思ったんだ。あんたのばかみたくまっすぐなとこ・・大好きだ・・。・・目が・・見えないよ・・カリフ・・もっと早く・・会いたかった・・。雪が・・見たかった・・。」
 カリフはオアカを抱き締めた。
 心の奥底から身を切られるような泣き声を上げた。

 オアカを殺した男は捕まらなかった。
 誰も見た者がいない以上、カリフは疑われた。
 カリフはオアカを失った上に自分が殺したと疑われるという二重のつらさも味わうことになった。
 カリフをよく知る者は信じてくれたが、議員であるだけに裁判は注目された。
 裁判所は街中の人であふれた。
 リエリは沈痛な面持ちでカリフと向き合った。
「この事件は証言する者がカリフしかいない。あまりにも材料が少なすぎる・・。だがカリフが殺したという証拠もない。人が裁ける限界というものがある。それを認めるのも法だろう・・よって無罪。」
 人々は息を飲んだ。
 リエリは人々に言った。
「カリフの証言通りならカリフの心痛はいかばかりか・・。こんな裁判を受けることは悲痛なことだ。そのことを慮ってほしい。」
 リエリは変わった。誰もがそう思った。
 カリフはリエリの真心によって、二重の苦しみからは救われることになった。 

 だがオアカを弔い、裁判が終わるとカリフはゴドワナの海岸で立ち尽くした。 
 この世界のどこにも行き場がなくなってしまった気がした。
(なんのために今まで生きて来たんだ。なんのために。オアカと出会うためか?そしてこんな想いをするためか?絶望するためか?もう二度と人を愛したくなんかない・・。手にしようとするとこの手の指の間から、すべてこぼれ落ちてゆく。)
 砂浜に座り込んで2日経った。
 憔悴したカリフの目の前を小さな蟹が横切っていく。
 海鳥が高く、一声鳴いた。
 顔を上げた。
(失うものなど何もない。しがみつくな。何ひとつ。君がほんとうに必要なものはいつもすべて君とともにある。)
(イーラウ?)
(愛する気持ちが実りじゃ。愛したならそれは実りでなくてなんだ。)
(ニライ・・。)
(見上げればみんな花だ。)
(こんな苦しみすら?)
(すべての感情はただ、味わいつくせ。感情にはよいもわるいもない。それを人や自分や何かを責める道具にせず、ただ単に目をそらさず味わい尽くすなら、それは昇華してくれる。さすれば感情の通り過ぎた胸には清々しい風穴が開くだろう。)
(イーラウ・・。)
 カリフは絶望を味わったまま立ち上がった。
 そのままにしていた家にもどると、弓と竜笛を手にして歩き出した。
 市を抜けようとしてエリセが声をかけた。
 エリセは屋台から栄養価の高いザザの実の袋をひと袋つかむとカリフに手渡した。
「だいじょうぶか?食え。」
 その袋の重みからエリセの情を感じとるとカリフはそっと笑んだ。
(わたしはまだ、人の情に笑って答えられるのか・・?・・いや・・これはただの習慣だ。ほんとじゃない。)
 サンダンの家に足を向けた。
 サンダンにさよならを告げた。
「世話になりました。オアカと出会ったこの街にいることは今のわたしにはつらすぎます。この街を去ります。ナキナイにもよろしく言ってください。」
「カリフ!」
 サンダンは叫んだが、カリフを引き留めることは出来なかった。
 ニライの小屋の入り口に立った。
 ニライは待っていたように声をかけた。
「行くのか?」
「ええ。」
「わしはこの通り歩けん。だが、おまえとともに歩いておるぞ。」
 ニライはいつもの明るい声を出した。
 だが、その瞳の奥に切ないものが光っているのをカリフは見た。
 カリフはニライを抱き締めた。
 ナランも泣いた。
「またもどって来てくれるね?」
 カリフは答えずにそっとうなずきナランの方を見て勇気をふるって微笑んだ。
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