バース・ミッション

<ファイナル・ハート続編>   *2007.7.25〜9.15*

〜絶望こそが生まれた理由(わけ)。
そしてそれが使命(バース・ミッション)だった。〜      

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45*ルマ
 深い喪失感、オアカを助けることが出来なかった自分を責める気持ち、運命を恨む想い、底知れぬ哀しみ、虚脱感、そのすべてとともにカリフは歩き出した。
 ゴドワナの海岸線を、さらに南下していった。
 何日歩いたろう。
 波の打ち寄せる音の響く、断崖の上へとやって来た。いくら歩いても虚無感は晴れなかった。
 無意識に死に場所を探していた。
 波が崖に砕け、地の底から低く響くような音に、知らず知らず誘われそこに来た。
 弓すら肩に重かった。それを地面に降ろそうとした時、カリフはあっと小さく叫んだ。
 まさに今、崖から人が飛んだ。
 カリフは弓を放ってあわてて崖の縁に走り寄った。
 一瞬波間に人の頭が見え隠れした。
 だがそれはすぐに消えた。
 周囲を見回すが誰ひとりいない。
 考えることを跳躍してカリフは崖を蹴って飛んだ。
 波の中で人の姿を追った。どこにも見つからない。
 深く息を吸うと一気に垂直に潜水した。
 表面の波の激しさとうって変わって、潜れば潜るほど波のうねりはゆるやかになった。
(いた!)
 10フィードほどの海底に、白髪混じりの女が沈んでいた。
 素早く女のそばにゆき、女の腕を自分の肩に廻した。
 海底を蹴って水面を目指す。
 無我夢中で浮上すると、息を吐いた。
 波が打ちつける断崖は下から見ると起伏があり、奥まったところにはひとが上がれそうな岩があって、その奥は洞くつになっていた。
 カリフは全身全霊でその岩まで泳ぎつき、女を引き揚げてそこに倒れこんだ。
 ここしばらくろくに食べていなかったカリフは、糸が切れるようにそこで気絶した。

 気がつけば陽は暮れていた。
 波の音はさっきよりも静かに穏やかになっていた。洞くつにいた。
「気がついたかい?」
 白髪混じりの女がこっちを見た。
 カリフは頭をおさえながらゆっくりと起き上がった。
「・・随分意識を失っていたようだ・・。」
「あんた、あたしを助け上げたね。」
 カリフは少し朦朧とする頭でうなずいた。
「そうかもしれない・・。」
「よけいなことを。」
 カリフは女を見た。
 しわをたたんだ初老の女は、怒っているのか哀しんでいるのかどっちともとれない、表情の乏しい顔を向けていた。
「やっぱり、飛び込んだんだな。」
「ああ。死にたいものは死なせてくれるのがほんとのやさしさだよ。」
「わたしはそうは思わない。」
 思わずそう言ってカリフは自分の言葉に驚いた。
「いや。ほんとはなんで助けに飛び込んだのか自分でもよくわからない・・。」
「・・おかげで死にぞこなっちまった。目が醒めたら青い顔の死にぞこないが横にいるじゃないか。」
 カリフはくっくっくっくっと笑った。
「ほんとだ。」
 女の方を振り向いて言った。
「どうして飛び込んだんだ?」
「・・聞くかい?」
「死にぞこない同志だ。聞かせてくれ。」
「息子が死んだんだ。」
 カリフは濡れた髪をかきあげながら女の話に聞き入った。
「あたしの息子は船乗りだった。嵐にあって船が漂流した。何日も消息が分からなかった。やっと船が見つかった時、息子だけが助かっていた。あたしはうれしかった。他のみんなには悪かったけど、息子だけは助かってほしかったんだ。だけど、せっかく助かった息子は死んじまった。」
「どういうことだ?」
「他の死んだ船乗りの肉を食べて生き残ったんだ。」
 そう言ったとたん堰を切ったように女はわあわあ泣いた。
 カリフは言葉を失った。
「・・耐え切れなくてせっかく生き残った息子は自分で死んだ。あたしも耐え切れなくて死のうとした。言ったろう?よけいなことだ。生かされる方がつらいことだってある。」
 しばらく女が泣くのをただ受け止めるしかなかった。
「それでも死ぬな。」
 女の泣き声が静かになってきた頃、カリフのつぶやきが洞くつに響いた。
 抗議するように女の泣き声は高くなった。
「それでも死ぬな。」
 カリフの目からは涙がとめどなく流れ落ちた。
 無茶な言い分だと自分でもわかっていた。それでもそれしかカリフは口に出来なかった。
「わたしはここに死にに来た。だけどあなたにこう言うしかないんだ。死ぬなって。理屈なんかじゃない。あなたに死なれるとわたしはただつらい。」
 女は泣き疲れたようにおとなしくなった。
「あんたも死にに来た?」
「たぶん。そうだ。」
「何があった?」
「愛した人に死なれた。」
「そうなのかい?」
 カリフは自分の膝に顔を埋めた。
 女の哀しみと自分の哀しみが入り混じって、嗚咽した。
 遠巻きにしていた女はおずおずとカリフのそばに寄った。そしてためらいがちに背中に触れ、そっとさすった。
 哀しみ合うだけだった。
 ただ、それだけの時が過ぎた。
「うちへおいで。そんなに青い顔をしていたらそれこそ死んじまう。」
 カリフはルマの家へと連れていかれた。
 ルマは火を起こし、湯を焚いた。
 カリフに自分の息子の服を与え、スウプを作った。
 そうしているうちにルマの頬には生気が蘇って来た。
 カリフは何日かぶりにぐっすりと眠りこんだ。
 朝が来て食べ物のにおいで目を覚ました。
「目が覚めたかい?」
 誰だか一瞬わからなかった。
 ルマが夕べとはうって変わって柔らかい表情を見せていた。
「名前は?」
「カリフ。」
「ルマ!ルマ!」
 女の声がした。
「エダ。どうしたんだい。」
「どうしたじゃないよ。パクティがルマが思いつめた顔をしていたというから、身でも投げやしないかと思って心配して見に来たんじゃないか。」
 エダはカリフを見て声をひそめた。
「誰だい?」
「身を投げたらこのカリフに助けられた。」
「ルマ!」
 エダが悲鳴のような声を上げるのをルマは穏やかに抑えた。
「悪かった。心配させて。もうしない。これからカリフの朝食だ。カリフがいるから妙なマネはしないよ。」
 エダは振り返りながら帰っていった。
「・・いい顔になった。」
 カリフはルマにつぶやいた。
「あんたもだ。やつれ切った顔が一晩ぐっすり寝て男前になった。」
 カリフは苦笑した。
 ルマと朝食をともにした。
「不思議だね。あんたのあれは効いたよ。」
「?」
「あたしが死ぬと理屈じゃなくつらいと言ったろ。」
 カリフは黙って小さくうなずいた。
「あたしはなぜか理屈じゃなくあんたにつらい想いはさせたくないと思ったさ。あんたはあたしよりも悲愴な顔をしてたからね。こんなあたしがあんたを慰めるしかないと思った。ばかだね。この哀しみなんておそらく一生癒されやしないさ。だけどあんたに抱いた想いはあたしに生きる力を思い出させた。」
「そうか・・。」
 カリフはルマの言葉に感慨を覚えていた。
 久しぶりに覚える空腹に笑顔を見せた。
「いいにおいだ。これはなに?」
 ルマがテーブルの向こうで物言いたげな瞳でカリフを見つめた。
「?」
「ひとを気にかけ、世話をするってことが、こんなにもひとを救うんだね。」
 カリフは万感の想いでルマを見た。
 ニライの言葉がよみがえった。
(満たしようもないほどの孤独な生き物じゃからこそどういうわけか人を満たしたいという想いもひとの本能としてある。)
 手を伸ばしてルマの手を取った。
「・・だから生きてくれ。わたしのようにルマに救われるひとのために。」
 ルマはうなずいた。そしてカリフに言った。
「約束しておくれ。あんたもそうすると。」
 カリフの頬に作り物でない微笑が生まれた。そしてゆっくりと深くうなずいた。
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