バース・ミッション

<ファイナル・ハート続編>   *2007.7.25〜9.15*

〜絶望こそが生まれた理由(わけ)。
そしてそれが使命(バース・ミッション)だった。〜      

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46*内なる声
 カリフは海岸に立った。
 哀しみ尽くした胸に風がさやさやと通っている。
(帰ろう。北へ。これだけのことを感じ尽くすためにここまで来たんだ。そうだろう?)
 天を仰いでイーラウに向かって微笑んだ。
(イーラウの言った通りだ。感情にいいもわるいもない。感じ尽くし、受け入れてゆくよ。そうすればこの胸に風穴はあく。)
[手放すならそれは旅立つ。・・哀しみも怒りも絶望も、たったひとりが昇華するときそれに連なる世界も昇華される。ひとりは世界の絶望と希望を背負っている。]
 イーラウの言葉にうなずいた。
 タスチフを目指す船を探した。
 ルマの往ってしまった息子の服を着て、北へ帰る船に乗り込んだ。
 ルマは見送らなかった。
「さよならは言わない。あんたとあたしはたましいで出会ったんだ。たましいには別れなどないさ。」
 ルマが生き返ったしるしのなによりのカリフへのはなむけの言葉だった。
 カリフはたましいでゴドワナの人々に語りかけた。
(ニライ。ナラン。サンダン。ナキナイ。ルカノ。マキナ。ノイエ。リエリ。キリ。サンコス。エリセ。・・そして・・オアカ。たましいで出会ったなら別れなどないな・・。さよならは言わない。)
 カリフは船で竜笛を吹いた。
 竜笛の響きは深みを増し、長い船旅の間中、カリフの周りに人垣を作った。
 カリフは笑い、人と語った。
 星の下で、オアカと語った。
(過去に何があろうと、あんたはその笛でこれから人を救うんだ。その笛の音の色が出来上がるには、あんたの今までのすべてはなくてはならないものだったんだ。)
(オアカ・・。)

 7年ぶりにタスチフの地を踏んだ。
 施薬院では相変わらずベクやロカが人々の中で忙しく立ち働いている。
 カリフがここに来たずっとその前から変わらぬ光景がここにはあった。
 流れつづけるカリフにとってここは北天の一隅に動くことなく輝きつづける星のようにまぶしかった。
 ベクやロカが働いているのを入り口にたたずんでじっと見つめた。
 傷ついた者、病んだ者、死の近い者、生まれたての赤子、それらがここに一時やってきて癒され、そして旅立ち、帰っていく。
 細胞が震えるような不思議な感覚を覚えていた。それは感動、と呼べるものかもしれなかった。
「カリフ!」
 大人になったロカがこっちに気づいて笑った。
 笑い返した。
「カリフでしょ!お帰りなさい!元気だった?」
 うなずく。
 ロカはすぐに微妙な皮膚感覚でカリフの瞳の光と影の濃さに気づいた。だがそれは言葉にすることは出来なかった。ただせいいっぱい笑顔を向けた。
「しばらくはいるの?」
「そうだな。」
 カリフは施薬院の小さな物置き小屋に寝起きした。
 ベクやロカの手伝いをした。
 そうして幾月か経った頃のある日の午後だった。
 ロカは自分の服を脱いで洗うカリフの背中を見た。今までになかった増えた傷跡を見た。
 ベクに告げた。
「かなりの傷を負っているわ。あれでよく平気な顔をしている・・。元々カリフは傷だらけでここへ来たのに。父さん、だいじょうぶかしら・・。」
 ベクはカリフを手招きすると服を脱がせた。
「ナンタラで殴られた時に言ったはずだ。けして無茶をするなと。おまえはまるで死に急ぐようだ。」
「そうかな?わたしはずいぶん、生きて味わう感動も知ったさ。それも、全部この傷あってのことだ・・。死に急いでいるわけじゃない。」
 そう言って笑顔を見せた。
 ベクはカリフの内臓を触診し、黙った。
 薬を出し、一言だけ言った。
「とにかく、無理はするな。」

 カリフは施薬院で竜笛を吹くことが多くなった。せがまれればいくらでも吹いた。
 からだの痛みを抱える者はそのひととき痛みを忘れた。
 死の近い者はその音に安らぎと救いを感じた。言うことを聞かないこどもがおとなしくなり、耳を澄ませた。
「薬以上に効くな。こっちはお払い箱だ。」
 ベクがおどけた。
 ロカがつぶやいた。
「カリフはまた旅立つわ。こんな音では・・。いつか旅立ってしまう・・。」
 ベクはロカの肩を抱いた。
「そういう星の元に生まれた男だ。わたしたちだけのカリフではないんだ。あいつを引き止めることはできない。その時が来たら送り出してやれるね?」
 ロカはけなげにこらえながらうなずいた。

 星は巡り、5年の歳月が流れた。見送られないよう、夜明け前に施薬院の門を出た。
 カリフは一度振り返って深く礼をすると、それから振り向かなかった。
 マントを羽織った。
 奥深くからの内なる声のする方へと再び歩み出した。
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