バース・ミッション

<ファイナル・ハート続編>   *2007.7.25〜9.15*

〜絶望こそが生まれた理由(わけ)。
そしてそれが使命(バース・ミッション)だった。〜      

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5*兄を遣わしたもの
 カリフは相変わらずその日暮らしで、エナンはそれを手伝っていた。
 だが時々イリュのいるエトナの遺跡までエナンは足を伸ばし、遺跡の石柱の影に座り込むようになった。
 エナンにとってイリュはなくてはならない人となっていた。

 エナンがイリュに会えなかった遺跡の神事の後、久しぶりにやって来たイリュは体調をくずしてカリフの小屋でしばらく寝込んだ。
 エナンはかいがいしく食欲のないイリュの世話をした。
 するとある朝、突然イリュは言った。
「馬に乗れないから遺跡に帰らないわ。」
「どうして?」
 エナンが問うと、イリュはうれしそうに微笑んだ。
「カリフの赤ちゃんが生まれるわ。」
 カリフは驚いた。
「まさか!」
 ほんとうだった。日に日に大きくなっていくイリュのおなかがそれを物語っていた。
 
 エナンが井戸の水を汲み上げている時、その人はやってきた。
 カリフはいなかった。
 イリュが扉を開けて、マントを深く被ったその人を中へ入れた。
 エナンは水を汲んでいた桶を放り投げて家に走った。
 扉を開けるとその人は振り向いた。
 美しい銀髪のイリュによく似た中年の女性だった。
「エナン。母のイリスよ。」
 その人は言葉なくエナンにうなずいて、またイリュに向き合った。
「遺跡守は誰にでも継げるものではない。遺跡守として生まれたおまえには務めがある。そこから逃げることはできない。おなかの子に哀しい想いをさせることになる。おまえには遺跡を捨てることはできないのです。」
「母さん。遺跡を守ることだけが“兄の心”を守ることではないわ。“永遠の光”はどこにでも灯っている。」
「むろん。そうさ。だが、おまえの運命はおまえが想うほど軽いものではない。1万年続いたものを守るということがどういうことかわかっていない。おまえは自分ともうひとりの絶望を救おうとしてあらたに絶望を生もうとしている。」
「いのちのことを絶望と呼ばないで。絶望をまとっていたとしても希望を育んでいるのよ。」
「わかっているよ。わかっている。」
 そう言ってイリスはイリュの手を自分の手のひらで慈しみ深く包んだ。
「おまえはおとなしくしておれない娘だった。幼い頃から。遺跡守は街には行ってはいけないと言っても聞かなかった。おまえはほんとうににんげんが好きだったから。そんなおまえをわたしは愛しているよ。・・だが、わたしたちにはどうにもならないこともある。それを引き受ける覚悟だけはしておいで。明日また来る。」
 イリュは黙った。
 イリスは待たせていた馬車に乗った。そして去った。
「イリュ・・。」
「エナン・・。」
「兄の心ってなに?永遠の光ってなに?イリュはそれを守ってるの?」
 イリュは微笑んだ。
「エトナの遺跡に来たことがあるでしょう?ペキニの街を治めたのは“兄の民”なのだけれど、その兄の民がはじめにやって来たのがそこなのよ。そこには兄と、兄を遣わした者を祀っている。わたしはそこを守っていかなければならない家の者なの。」
「兄をつかわしたものって?」
「大きなものよ。わたしたちがここに生きているその理由(わけ)の大元。すべての始まりであり、世界の中心であり、未来を形づくる図り知れない意志。そしてそれはあたたかい手のひらでもあるわ。」
 エナンはぽかんとした顔をしてイリュの顔を見つめた。
「・・こっちへ来てエナン。」
 イリュは微笑んでエナンをそばに座らせた。
「兄の民は素朴で誠実でほんとうの意味で強かった。“永遠の光”を心から信じ、暮らしの中で守ってた。それが“兄の心”。その兄の民の心にふれて、ペキニで大きな争いを繰り返していた弟の民は1万3千年かけて融和の方へと進みつづけてきたの。まだまだほんとうの融和への道は遠いけれどね。」
「永遠の光ってその、ゆうわのこと?」
「そうね。」
「ゆうわってなに?」
「愛しあうことよ。」
「愛しあう?イリュはそれを守るためにつらい想いをするの?」
 イリュは首を傾けて黙った。けれどもすぐにあの暖かいまなざしを向け、エナンの頬を両手で包んだ。
「大丈夫よ。心配しないで。」
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