バース・ミッション

<ファイナル・ハート続編>   *2007.7.25〜9.15*

〜絶望こそが生まれた理由(わけ)。
そしてそれが使命(バース・ミッション)だった。〜      

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47*再会
「あんたのそれは笛かい?」
 カリフは声をかけてきた初老の女に、お茶を飲んでいた顔を上げた。
「竜笛だ。」
 そう言ってやわらかく微笑んだ。
 女は目を輝かせてカリフの前に座った。
「これがそうかい。ちょっとうちに来て吹いてくれないかい?。うちの人が寝込んでいるんだが、昔聞いた竜笛の話をするんだ。聞かせてやっておくれな。」
 カリフはうなずいた。
 北へ向かおうとしていた。
 自分のルーツへとようやく足を向けることができるくらいカリフのこころの筋肉は37年ほどの歳月を経てしなやかについてきていた。
 それはエローたちと出会った峠を超えようとするその麓の茶店でのことだった。
 女は茶店で働く若い娘に声をかけると、裏の小さな小屋へと案内した。
「あんた、竜笛を吹く人が来てくれたよ。」
 白髪が混じった痩せこけた男は、寝台の上で壁を向いて横たわっていた。
 セトを思い出した。
 カリフは傍らに腰をかけると、竜笛に静かに唇をつけ、そして一気に息を吹き込んだ。
 小屋は黄ランドウの原となり、笛は風を受けて走る舟となり、竜は大海を山脈を駆け巡った。
 時は止まり、永遠が浮上し、太陽が灯り、星が輝いた。
 カリフは吹き終わることを忘れた。
 竜が天に昇るまでそれは吹かれ続けた。

 ようやく目を開いたカリフの前に、男の見開かれた瞳があった。その瞳からは流れ落ちる一筋の透き通ったものがあった。
 カリフは不思議な感覚を覚えていた。
「どこかで・・会ったことがありますか?」
「・・おまえは・・。」
「カリフです。」
 男は目を閉じてさらに泣いた。
「どうしたんだい?ソン。」
 カリフは女が口にした名に思わず立ち上がった。
「ソン!」
 しばらくソンは言葉を出せずにいた。
 カリフは力が抜けたように椅子に再び腰を降ろした。女に語りかけた。
「あなたは?」
「サジ。ソンを知ってるのかい?」
「いのちの恩人です。」
 茶店の娘が扉を開けて入ってきた。
「いい笛の音が聞こえたわ。お茶をどうぞ。」
 そう言って店にもどっていった。
「娘さんですか?」
「このひとが連れてた娘でね。」
「もう長く一緒に?」
「そうさね。25年くらいになるかね。」
 ソンの方を向いて尋ねた。
「エローは?」
「デズに殺された。」
「コギやデズやアドは?」
「コギとデズは仲間割れして死んだ。アドは去った。行方は分からない。」
 カリフははっと気がついた。
「もしかして、あの子は?」
 ソンはうなずいた。
「ああ・・。」
 カリフは顔をおおった。
「生きていたのか・・。」
 震えがきた。
 自分が殺したかもしれないいのちが、生きて成長していた。
「助けてくれたのか。ありがとう!」
 そう言ってカリフはソンの手をにぎった。

 夕食をともにした。
 ソンは娘を紹介した。
「カリだ。」
「カリ?」
「お前のカリフからとった。」
「峠は今は山賊はいないのか?」
「いや・・。いつだってそういうやつはいる。だが、オレはお前とサジに救われた。」
 カリフは驚いた。
「わたしがソンに救われたんだ。」
「いのちもそうだが、さらに救われなければならないものもある。・・たましいだ。オレはあの頃、生きながら死んでいた。今は死んでいこうとしているが、たましいは蘇った。お前はほんとうのオレを思い出させたんだ。」
 カリフは衝撃に打たれてつぶやいた。
「だったらカリフのおかげだ。わたしが殺したカリフがいたからソンはその鎖から逃れることができたんだ。そうだろう?」
「カリフは人を殺したことがあるの?」
 カリが心細気に聞いた。
 ソンが答えた。
「人を殺しもし、生かしもするのが人だ。あの時の子どもがあんな竜笛の吹き手になって死の床のオレの元で吹いてくれるとは。オレは極道者だが、あの時の行ないは最後に祝われた。」
 カリフはカリがしあわせに育ったあたたかい目をしていることに奇跡を味わうような喜びを覚えた。
 ソンの小屋で横になった。
 家族になって寄り添って暮らしている3人の寝息を聞きながら、カリフは眠れなかった。
 たとえようのない感情を覚えていた。
(イーラウ。わたしはあの頃こんな日が来るなんて思ってもいなかった。いったいなにに感謝すればいいんだ。)
 イーラウならこう答えるだろうと思った。
(たとえこんな日が来なくとも、感謝するに価するのが人生だ。)
(そうだ。そうだな。生きてここにいること。今日のこの日がなければ、味わうことができない数々の感情がある。こう言おう。ありがとう。すべてに。)
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