バース・ミッション

<ファイナル・ハート続編>   *2007.7.25〜9.15*

〜絶望こそが生まれた理由(わけ)。
そしてそれが使命(バース・ミッション)だった。〜      

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48*河
 翌日、カリフはソンとサジとカリに見送られて茶店を出た。
 ソンは言った。
「どんなやつがいるかわからない。気をつけろ。陽が暮れて山で過ごすな。」
 うなずいてカリフはソンに笑顔を贈った。
「また会おう!」
 遠い日の記憶に残る山道は、今辿ると思ったよりも細く、峠は案外近かった。
(あの頃は子どもだった。果てしなく思えた道もこうだったのか。)
 ソン達と過ごしたのはどこだったのかはわからなかった。
 その時だった。
 茂みの陰から10歳くらいの少年がカリフの目の前に急に飛び出してきた。
 カリフは一瞬子どもの頃の自分が現われたように錯覚した。
「助けて!父さんが!」
「どうした?」
 少年に導かれた茂みの奥には足に傷を負って座り込む男がいた。
「どうしたんだ?だいじょうぶか?」
「山賊にやられた。いのちからがら逃げた。」
「いのちが無事でよかった。」
 足には布がまかれ、血がにじんでいた。
「こいつが手当てしてくれた。」
 少年のあたまに手を置いた。
「オレはヤンドウ。こいつはリキだ。」
「カリフだ。歩けないのか?」
 ヤンドウはうなずいた。
「父さんは心臓も悪いんだ。」
「だが、このまま山にいるのは危ない。わたしがおぶって山を降りよう。」
「そうしてくれるかい?」
 リキはうれしそうな顔をしてそう言った。
「こっちなら降りたところに茶店がある。」
 カリフはそう言ってリキに自分が背負っていた弓を渡し、ヤンドウを背負って来た道を引き返し始めた。
「今山にいる山賊はどういうやつだ?」
「雲つくような大男だったよ。危なかった。」
「よく逃げられたな。」
「オレが目に石をぶつけてやったんだ。」
 カリフはうれしそうに得々としゃべるリキの方を見てふっと笑った。
 道の向こうに麓の村が見えて来た。
「もう、すぐだ。」
 そう言ってカリフはほっと息をもらした。
 その時だった。
 背負われたヤンドウがまわした腕でいきなりカリフの首を締めてきた。
「!」
 カリフはとっさにヤンドウを振り落とした。
「ちっ!」
 落とされたヤンドウはあろうことかすっくと立ち上がり、腰に差していた短刀を抜いた。
 ぎらぎらした目をしてすきのない動きでカリフに今にも襲いかかろうという態勢をとっている。
 カリフは横目でリキを見た。
 リキも小獣のような目でカリフの弓を手にとって矢をつがえようとしている。
「芝居か。お前らが山賊か。」
 ヤンドウは喧嘩慣れした様子を見せていたが、カリフも数々の修羅場慣れしてきていた。
 ヤンドウが動いたその瞬間に、素早くヤンドウの後ろに廻り込んで腕を捻って押さえ込んだ。ゲダイの技が役に立った。
「父さん!」
「リキ。父さんの腕をへし折られたくなかったらおとなしく言うことをきけ。」
「いててて!痛い!」
 ヤンドウは持っていた短刀を落とした。
 カリフはそれを拾うと口にくわえ、自分の腰帯を抜くと、それでヤンドウを縛り上げた。
「父さん!」
 リキはカリフの弓をおぼつかない手つきで引こうとしていたが、無理な話だった。
「弓を持ったままついて来い。じきに麓だ。」
 リキは眉間にしわを寄せてくやし涙を流しながらカリフとヤンドウの後ろをついて来た。
 サジが目を丸くしてこっちを見た。
「どうしたんだ。」
 カリフは小声でサジだけに聞こえるように告げた。
「山賊だ。ちょっと小屋に入れてもらってもいいか?」
「ああ。構わない。あたしも後から行くよ。」
「ソン。すまない。ちょっといいか。」
 カリフはヤンドウを椅子に座らせると、ソンに声をかけた。
「どうした?」
 ソンは寝返りを打った。
「山賊だ。襲われた。」
「そっちの小さいのもか?」
「ああ。親子だ。」
 カリフはヤンドウの方を向いて言った。
「人を殺したか?」
 ヤンドウは答えなかった。
「・・わたしはこどもの頃、リキと同じように人をだますことをしていた。そしてソンとわたしはあの峠で山賊だった。だが山賊がいやになって逃げようとして、殺されるところをソンに助けられた。ソンはもう足を洗ってサジのだんなになった。」
 カリフはそこでため息をついてソンに話を向けた。
「何か言ってやってくれ。」
「・・・。」
 くっくっくっくと笑う声がした。
 ヤンドウだった。
「ばかばかしい。突き出すならさっさと突き出せ。牢獄ならむしろおまんまには困らねえ。」
「おまえはよくても子どもはどうする。」
 ソンが言うとヤンドウは黙った。
「ソン・・。ひとはいつも同じことを繰り返すのか?ひとりが救われてもこうしていつもいつもだれかしらが救われていないならきりがない。いったいなんのためにわたしたちの苦しみはあるんだ。」
「・・ひとりひとりの時間はちがう。死んでも変わらないものもいる。その時が来ないとわからない。・・しんぼうしろ。そして・・あきらめるな。」
「ソン・・。」
 ソンはカリフの目をじっと見つめて一語一語かみしめるように語った。
「オレは死ぬまで極道をして生きていくと思ってた。おまえの一言がオレを変えたように、こいつらにはこいつらのきっかけがきっと来る。」
 カリフはソンが言うのに耳を澄ませた。
「あきらめるな。にんげんのことをあきらめるな。」
 ソンが言う言葉はカリフの胸を打った。
 あんなに冷えきって剣のような瞳をしていたソンが今、深い真心からそう言う。
 氷のようだったソンの心は、サジのぬくもりによって長い年月を経てここまで融かされてきたのだろうか。
 自分が思うよりもはるかにひとのいのちの、たましいの道のりは上回ることはあるのだ。
 そのことをソンは信じさせてくれた。
 サジがお茶を入れてやって来た。
「どうしたんだ。子どもが泣いてるじゃないか。」
「サジ。」
 ソンはサジに向かって呼びかけた。
「この子をカリと育ててやってくれないか?」
 サジは黙ってソンを見た。
「カリやオレを育ててくれたように。この子には家庭の愛情が要る。」
 サジは笑うと言った。
「わかったよ。あんたがそう言うなら。」
「カリフ。」
 カリフはうなずいた。
「いのちはつづいていくんだ。こうして次へと託すことで。それはおまえからきたものであり、おまえが殺したカリフからきたものだ。そうすればおまえが殺したカリフは生かされ、おまえもオレも生かされる。」
 カリフはソンの手に自分の手を乗せてうなずいた。
「少し、寝かせてくれ。」
 そう言ってソンは目を閉じた。
「ヤンドウ。」
 カリフはヤンドウを振り返った。
「リキのことは好きにしろ。オレは牢獄へ入る。」
「オレはいやだ!父さんといる!」
 カリが入ってきた。
「どうしたの?」
 泣いているリキのそばに座った。
 だだをこねて腕を振り回すその手がカリの頬をはたいた。
 カリは頬をはたかれても暴れまわっても、リキの頭を、背をしんぼう強くなで続けた。
 カリフはそこにサジとソンの営みの結晶を見たように思った。
 リキは殴ってしまったカリの顔を見つめていたが、やがてカリの胸に顔をうずめて泣いた。
 カリフはしばらく黙ったままヤンドウとリキを見つめていた。
「早くしろ。陽が暮れるぞ。おまえが突き出さないならオレはまた山賊をやる。」
 ヤンドウがうながした。
 ヤンドウが隙なく心を閉ざすのを見てとるとカリフは静かに立ち上がった。
 ヤンドウとともにタスチフの会議場に行き、裁判を受けた。
 ヤンドウは3人殺したことを告げた。
「何年かかるかわからないが、恩赦があれば出られる。そうしたらリキに会いにいってやってくれ。」
 カリフとずっと口を聞かなかったヤンドウは最後に振り返った。
「リキはオレと違う道が見つかった。それでいいじゃねえか。」
 ヤンドウのほんとうの胸の内の一端がふっとこぼれ落ちた瞬間だった。
 カリフはヤンドウのことを想いながら星が浮かび出した道をソンの元へと辿った。
 ソンの小屋へもどるとカリフはつぶやいた。
「・・これでよかったんだろうか?わたしはもっとヤンドウのために何かができたんじゃないんだろうか?」
 ソンはじっと天井を見つめていたが、一言ぽつんともらした。
「河をつかまえようとしてもつかまらない。」
「?」
「つかまえたように見えるのは手ですくった河の水だ。だが、それは河じゃない。河は誰にもつかまえることはできない。河は河としてそこにゆうゆうとあるものだからだ。」
 そう言ってカリフの方を見て言った。
「川岸に立ち止まるな。オレは自分の業からくる病を得て死を味わうことがつとめ。ヤンドウは牢獄で自分に向き合う。それがヤンドウが望んだつとめ。おまえは流れにのってオレたちの分もどこまでもゆけ。河を感じろ。それがお前のつとめだ。」
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