バース・ミッション

<ファイナル・ハート続編>   *2007.7.25〜9.15*

〜絶望こそが生まれた理由(わけ)。
そしてそれが使命(バース・ミッション)だった。〜      

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49*誕生の使命
 翌朝峠を越えた。
 この先にはペキニがひろがっており、そして、遠く北の峯が輝いている。
 この地へと足を踏み入れることはカリフにとっては大きいことだった。
 だからこそ来なければならなかった。
 絶望の縁で無我夢中で歩いた道はほとんど覚えがなかった。
 馬車には乗らずに歩いた。
 馬車で着くにはこれまでのこころの道のりが遥かだったので、ペキニには一歩一歩踏みしめることで近づくしかなかったのだ。
 市の喧噪の海へと辿り着いた。
 こがしマムのにおいがする。
 見知らぬ街のようだ。
 あれから25年経ったが、ここはカリフの歩みをよそにこうして知らん顔をして在り続けたのか。
 裏路地を歩き、暮らした小屋のあった辺りにも足を運んだ。小屋はなかった。
 “カリフ”がよく行っていた酒場にも寄った。人が変わってすっかり様変わりしていた。
 そこで発酵酒を飲んでいると、聞いたことのある名を耳にした。
「・・オーネンの説法だろ。行くさ。」
「おまえが司祭宮なんかへ行くのか?」
 もうひとりが笑った。
「あの人だけは別だ。オレはあの人に救われた。」
「父さん!またこんなところにいるのか?」
「イル!酒は飲んじゃいねえ。話をしてるんだ。」
「ここにいたら飲みたくなるだろう。さ、帰るぞ。」
「またな。」
「じゃあな、ラグ。」
 カリフはラグという男と別れたもうひとりの男に聞いた。
「オーネンって?」
「去年司祭宮の大司祭になったオーネン司祭に決まってるじゃないか。おまえ、よそ者だな?教えてやろう。ペキニ118代の『タイラオラ(眼(まなこ)開いた者)』だ。ここ二百数十年空席だった。」
「説法があるって?」
「ああ、午後からな。」
 カリフは司祭宮に向かった。
(あのオーネンなのか?)
 昼過ぎだったが、すでに司祭宮の広場は人でごったがえしていた。
 カリフはそこにいたひとりにオーネンはテラスに現れると聞いた。
 人であふれていたが、人波をかきわけてテラスの下の階段の踊り場に立った。
 そこにいた人々が語り合っていた。
「タイラオラ・オーネンの説法が聞けるなんて幸運だ。」
「おれもまさか自分の代でタイラオラにまみえることができるとは思ってなかった。もうペキニにはタイラオラは出ないのだと思ってた。」
「ああ。まさに。」
「タイラオラは激動の時代にともに生き、その眼で見る世界を指し示す。喜んでばかりもいられないぞ。これから厳しい変動の時代になるってこった。」
「だからこそタイラオラは必要だ。なんの羅針盤もなく荒海に投げ出されて見ろ。泳ぎ方も知らずにおぼれるのがおちだ。」
 広場はみるみるうちにびっしりと人で埋まっていった。
 カリフは人々の会話の海に漂っていた。

 やがてその時が来た。
 ざわめいていた群集の声が潮が引くように静まり返ってゆくのでそれと分かった。
 先導する司祭がふたり両側に別れると、そこに白い髭をたくわえたその人の笑顔があふれた。
 それを目にした人々からどよめくような歓声が湧き上がる。
 そしてすぐに一斉に水を打ったようにしんと静まり返り、固唾を飲んでその人が発する言葉を待った。
 カリフが18年前に別れた切りのその人が、これだけの群集の前に風格を見せて現れていた。
「ここに、みなと時を分かつことをしあわせに思う。タイラオラの姓をいただいたのは昨年であった。」
 喝采が起こった。
 それを穏やかに制すると、オーネンは続けた。
「それはなぜか。次元を超えた扉がわたしの前に開かれたからだ。わたしに開かれた次元は11ある。それがすべてかどうかはまだ分からない。だがそうである限り甘んじてこの使命を果たしてゆかなければならない。これからそれらの次元を超えてゆかねばならぬみなのために。順々に説いてゆくが、まず述べよう。『生まれた理由(わけ)』のために生きよ。ここに千人の人がいるならば、千の理由がある。意味なく生まれる者はいない。その理由こそが生きる使命である。」
 そう言ってオーネンはまるでひとりひとりの瞳を覗き込むように、ひとりひとりの心に届けるようにまんべんなく広場を見渡した。
 その時、カリフはオーネンと目が合ったことを感じた。オーネンはカリフのことも見透かすようにまっすぐに見つめた。カリフは瞬間、オーネンと二人きりでいるような錯覚に陥った。
「『理由』とは?と問うであろう。ならば答えよう。絶望こそが理由である。人は絶望によってこそ使命を負う。もしも蟻地獄のような不運を味わったとしたら、蟻を助けよ。極寒の孤独を味わったとしたら、凍える誰かを温めよ。荒涼たる虚無の沙漠を歩いたとしたら、次の出会いに花を捧げよ。生にも死にも届かぬ空虚な波打ち際を歩くのも絶望だ。ならば水に触れよ。水を感じよ。心のおもむくままに大海に漕ぎ出せ。使命なき者はこの地上にひとりもいない。絶望なき者がいないように。これこそが生まれながらに負う『誕生の使命』である。天から降った水は低きに流れそこをうるおし、太陽の愛によって形を融かれ、天へ昇る。世界は分けられないひとつである。」
 そう言ってそれが届くようにまた味わい深い間を置いた。そしてさらにゆっくりとかみしめるように言葉をつむいだ。 
「水は地上のあらゆるものにまみれ、流れをさえぎられ澱みもするであろう。だが、水はどんな汚濁にまみれようと水である。蒸気となるのはただ水だけである。あらゆることを味わい尽くすこと、つまりあらゆる体験へと万にも億にも分かれてゆくこと、そしてなおかつ一つなるものへと向かってゆくこと、これらが“同時”にある。その両輪が天地を巡り、巡らせる。今日ここにこの大きな約束のことを告げてわたしの説法としたい。」
 そう言ってオーネンは穏やかな笑みを浮かべて静かに頭(こうべ)を垂れ、下がっていった。
(誕生の使命?)
 カリフは自分に響いてくるその言葉を静かにかみしめていた。
(イーラウは言った。「生まれた意味」があるのだと。ニライは言った「役目を終えるまで死ねない」のだと。ソンはそれがわたしの「つとめ」だと言った。オーネンはそれを「誕生の使命」と言うのか?)
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