バース・ミッション

<ファイナル・ハート続編>   *2007.7.25〜9.15*

〜絶望こそが生まれた理由(わけ)。
そしてそれが使命(バース・ミッション)だった。〜      

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51*北の峰
 北の峯のどこで生まれたのか、定かではなかった。だが、向かった。
 晩秋の木々はうつくしく錦をまとい、人の通らぬ陰には霜柱が壊されることなく林立していた。
 行き会った木こりに昔あった村のことを聞いた。
 男はおぼろげな記憶をたどってうなずいた。
「ああ、そうだな。昔流行り病で全滅した村があった。この先の峰をふたつ越したところだ。」
 途中で陽が暮れて焚き火を焚いた。発酵酒を温めながらマントの胸元を引き寄せた。
(冷えるな。)
 天を仰いだ。薄曇る夜空からはらりはらりと何かが降ってきた。
「雪か・・?」
 しばらく天空を見つめた。
 そっとつぶやいた。
「オアカ・・。これが、雪だ。」

 翌朝うっすらと積もった雪に景色は表情を変えていた。
 美しく晴れ上がった。
 カリフは輝く峰々にほうと息を吐いた。
 足早に歩を進めた。
(こんな山道を下って来たのか。幼かったが・・。)
 遠い記憶のかなたで、泣くこともできずにただ必死で歩いた自分の切なさが疼いた。
 木こりが言ったように峰をふたつ越した。
 だが、そこには人が住んだ跡はおろか、なにも見つけることは出来なかった。
 尾根に立ってかなたを見遥かした。
 高く響く声を上げて、鳥が悠々と大きく旋回していた。
 何も見つけることができないカリフの気持ちを鳥は少しでも晴らしてくれようとでもするかのようだった。
 と、その時、その鳥は妙な羽ばたきを見せていきなり墜落した。
(射られた!誰かいる!)
 辺りを見回し、見つけることが出来ないのでカリフは鳥が落ちた方へと滑り下った。
 潅木の根元に倒木があり、そこに鳥が落ちていた。
 木影に潜んで待った。
 斜面を滑るように降りて来たのは子どもほどの背丈の小さな老いた男だった。
 鳥を確かめ、そっと手に取る。
「あなたはこの辺りの人ですか?」
 カリフの声に男はぎょっとして振り返った。
「なんだ、おまえは?」
「・・昔、この辺りに住んでいた者です。村があったところを探しているのです。30年ほど前、病いで全滅した村があったのですが・・。」
 男は目を見開いた。
「おまえは?」
「昔はエナンと言いました。」
「エナン・・。」
 男は絶句した。
「生きていたのか・・。」
「わたしのことを知っているのですか?」
「ああ、小さな村だ。」
「あなたは?」
「セブだ。では村で生き残ったのはオレともうひとりおまえということになる。」
「村の場所へと連れていってもらえますか?」
「ああ。」
 尾根と尾根の狭間の落ち窪んだ空間まで登っていって、セブは指を差した。
「ここに20軒ほどの小屋があった。病が広がるのを恐れて焼かれた。おまえの家はあのあたりだった。」
 そこは色鮮やかな落ち葉がしんと散り敷かれ、美しい峰々を遠く望むこころ安らぐ地だった。
(ここに村があり、人の暮らしがあった。・・今は誰もいない・・。)
 その昔暮らした人々がかき消すように消えてなくなったことを想い、必ずやって来る死というものを痛感した。
 たくさんの人の死を見、それを望んだこともあった。だが、なぜかその時よりもより切実に人の生の儚さに細胞が震えた。
 別れがたきこの世の美しさも同時に感じていたからだった。切なかった。人生には限りがありその約束から誰も逃れることができないことが。
 ふと、落ち葉の中にあるものを見つけた。
(セト・・。)
セブに聞いた。
「・・パンゲナの花は今頃咲くのか?」
 セブは答えた。
「秋のパンゲナの名残りの花だな。春と秋と2回咲く。淋しい時に慰みをくれる。」
 死の直中に生が咲いていた。
(あの時もそうだった。この花はわたしに生を教えてくれる・・。)
 感慨深くカリフはパンゲナのそばにひざまずいた。
 セブが声をかけた。
「こっちへ来い。」
 連れて行かれたのは少し斜面を下ったところにあるひらけた空間だった。
 たくさんの石がある。
「ここにオレが埋葬した。100人ほど眠っている。」
「ひとりで?」
 セブはうなずいた。
「オレは赤ん坊の頃この病いになった。幸い人には伝染らなかったしオレも命はとりとめた。だがそのせいで背は伸びなかった。そのことを恨んだ時もあった。だがどうもそのおかげであの時オレだけ病いにかからなかったようだ。みんな見送ってみんな埋葬した。」
「では父や母のことも知っているのですね?」
「ああ、こんな身体でいじめられるオレをよくかばってやさしくしてくれた。おまえには妹もいたな。覚えているか?」
 カリフは首を振った。
「妹はどちらかというと父さん似で、おまえは母さん似だったな。ばあさんもいたろ?」
「わたしは何も覚えていないのです。」
「そうか。あまりにも辛すぎたからな。忘れるしか生きてゆけまい。それにしてもあんなに小さかったおまえがよく生き延びた。」
 カリフはうなずいた。
 その夜はセブの小さな小屋に泊めてもらった。
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