バース・ミッション

<ファイナル・ハート続編>   *2007.7.25〜9.15*

〜絶望こそが生まれた理由(わけ)。
そしてそれが使命(バース・ミッション)だった。〜      

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52*結晶
「たったひとりで100人もの人を埋葬し・・。そして今もここにひとりで住んでいる。なぜですか?」
「オレはそのために生まれたからだ。」
「えっ?」
「・・辛かったさ。母も兄弟も、オレにやさしくしてくれた人も、オレをいじめたやつすらも、みんなみんなすべて死んでいった。無防備に。赤子のように。埋めても埋めてもきりがない。涙も枯れ果てて、オレはいったいなんのために生きているんだと思った。そうだろう?そこにあった村が消えるんだ。儚いことだ。あんなに元気だった人たちが・・。嫌われていた人も、惜しまれる人も、なにもかも平等だ。自分が思っていたよりもみんなずっと早く死んだことだろう。」
 カリフはうなずいた。
「オレは口惜しかった。せめてそれを痛んで生きてゆくことにした。オレはこんなに長生きするとは思っていなかった。きっと死んだ者の分生きたんだろう。だから、替わりにこの峰の春や夏や、秋や冬をこのちっぽけな身体で味わってゆくんだよ。100人分ね。」
「セブ・・。」
「おまえの分担は山を降りることだったんだな。ここでは味わえなかったろうたくさんの経験をしたか?」
 そう言って歯の抜けた顔でセブは笑った。
 カリフは微笑した。
 セブはうなずいた。
「ならいい。ならいい。よかった。オレはうれしい。きっとおまえの親も親戚も喜んでいるぞ。」
 天の星の数ほどの死が地上の生を見つめていた。
 カリフはようやく何を探していたのかがわかった。

「会えてよかったよ。」
 カリフは手を伸ばした。
 セブはその手をにぎりしめた。
「オレも冥土の土産が出来た。みんなに知らせてやろう。エナンが生きていたとな。」
 尾根を下った。
 小さなエナンが必死で下った道を、成長したカリフは力強く下った。
 振り返らなかった。振り返らずとも、胸に遥か雄大な山の景色は宿っていた。
 カリフはずっと家族のいない自分をひとりだと思ってきた。だが、そうではなかったことを知った。
 自分が闘ってきた間、セブはあそこで闘っていた。そして、闘っているように思ってきた営みのすべてが、なにか大きなもののあたたかき手のひらの上であったことを悟った。
 そのことはこう告げていた。
『どこへ逃ればその御手の上から逃れられることができよう。』
 人絶えた地にも四季は巡り、そこはただ静けさに満ちた美しき土地として穏やかな木漏れ日に照らされている。
 果てしなき大きな手のひらの上に村の100人とともにあり、今まで出会った人々もある。
 そして、これから出会うだろう人々も。
(平等このうえない。そして、使命なき者はいない。生かされたなら生きよう。生きて来たすべてを次へと手渡そう。)
 無意識に胸に手を当てていた。
 そこに守り伝えるべき結晶の存在をはらんでいた。
 それは、慟哭する直前に浮上するような、あののどを突くような切なさに似ていた。
 そしてそれは哀しみと紙一重ではあるが、それとは次元の違う“喜び”でもあった。
 微笑みが浮かんでいた。
 自分では気づいていない。
 カリフは自分の前を先導する足跡を見ていた。
 それはいつもあったものだった。
 イーラウの顔をして。ニライの顔をして。ソンの顔をして。オーネンの顔をして。数え切れぬ人々の顔をして。
 そして、カリフを刺した時、カリを殺せと言われた時、女将を殺したいと思った時、エンライに恐怖を覚えた時、オアカが死んだ時、底なしの暗闇にいるように思えた時すら、それはそこに在ったことを思い知った。
(自分の足で歩けなかったあの時・・)
 ああ、と嘆息した。
(背負われていた。なにか大きなものに。だから今、この足で歩けるんだ。そうでなければ今頃とっくに・・。イリュ・・。それはあった。)

 北の峰を降りて来たカリフは、その足でペキニの墓所へ向かった。
 無縁の者が眠る一隅は、ペキニの外が見渡せる小高くひらけたところにある。
 花を手折った。
 目的の石のところまで来てひざまずいた。
 そこには『カリフ』と刻まれている。
(生きているカリフともっと話したかった。きっとわたしの知らない苦しみを山ほど抱えていたんだろう。カリフ・・。・・悔やんでも悔やみ切れない・・。これはわたしが背負うべきことだ。ちゃんと痛んでいく。)
 しばらくカリフと話をした。
(そうだ。そうだな・・。痛んでいる誰かが背負えるよう、その誰かの力になろう。)
 立ち上がった。
「また来る。」
 夕闇が迫り、眼下のペキニの街には灯りがちらほらと灯り出していた。
 カリフは墓所を下った。

 司祭宮までもどるともうとっぷりと陽は暮れていた。
 閉められた扉の端についた金属の輪で扉を叩いた。小さな覗き戸が開かれ司祭の目がうかがう。
「カリフと言います。オーネン司祭にお会いできるなら・・。」
 戸が閉められ、遠ざかる足音がした。
 遠く闇に沈む尾根の上に星を見ながらカリフは待った。
 大扉の隅の人ひとり通れるくらいの扉が開かれた。今度は中庭は通らず、司祭宮の奥へと導かれる。
 立派な細工が施された扉があり、そこへと招き入れられた。
 笑みを浮かべてオーネンが手を伸ばした。
「よく帰った。」
 なんの説明も要らないことはわかっていた。
「もう学問所のハス先生には伝えてある。行きたまえ。未来の集うところへ。」 
 それを聞いてカリフは、パンゲナの花のように、明るく白く笑った。      

                                  〜完〜
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