バース・ミッション

<ファイナル・ハート続編>   *2007.7.25〜9.15*

〜絶望こそが生まれた理由(わけ)。
そしてそれが使命(バース・ミッション)だった。〜      

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11*イーラウ
「どうした?」
 力尽きてうつぶせたカリフのその伸ばした手は、大きなてのひらににぎりしめられた。
 あたまから頭巾をかぶった背の高い老人が、カリフの伸ばした手を塀の外から取ってひざまずいていた。
「怪我をしているのか?病か?家の者は?」
「・・たすけ・て・くれ・・。」
 もうろうとしていたカリフだったが、かすれた声で訴えた。
 老人はまだ人っ子ひとりいないあたりを見回すと、年齢に似合わない身軽さですばやく
柵をよじ登ってひらりと敷地に降り立った。
 カリフは最後の望みをかけて振り絞るように告げた。
「・・ここから・・出して・・くれ。」
 カリフの傷に尋常でないものを感じた老人は、柵の高さを見て一瞬思案したが、決意のこもった声で応えた。
「少し耐えろ。柵を超える。」
 老人はカリフを背負った。カリフは激痛をこらえて叫び声をあげながら老人の首根っこにしがみついた。
 柵を超えた。老人は自分のマントでカリフをくるむと、もう一度背負い直して港の方へと向かった。
 カリフは痛みに耐えかねて気を失った。

 うつぶせのまま目覚めたのは港町の一隅の小さな施薬院だった。
「痛い・・。」
 つぶやくカリフの声を聞いて振り返った人物が老人を呼んだ。
「気がついたよ。イーラウ。」
 うすぼんやりとした視界に見覚えのある老人が映った。
「ああ、すまないベク。・・どうだ。だいじょうぶか?」
 イーラウと呼ばれた老人は目の前に座ってカリフの顔を覗き込む。
 カリフはまばたきした。
 そんな目を久しぶりに見た。誰だったろう?
(イリュ・・)
「ひどい怪我だ。しばらくは動かせまい。いったいどうしたんだ。鞭の傷じゃないのか?」
 丸い顔をして髭をはやしたベクという男がつぶやいた。
 イーラウは無言でうなずいた。
「わたしは一度舟で島に帰る。会う者がいる。しばらく預かってくれ。また来る。」
 そうベクに告げると、イーラウはカリフに聞いた。
「名前はなんというのだ?」
「・・カリフ・・。」
「カリフ、ベクは信頼できる。腕もいい。しばらくここで養生するんだ。わたしはまた来る。」
 カリフはうなずいた。

 施薬院の施術師であるベクは毎日傷に塗り薬を塗り、当てる布を取り替えて手当てしてくれた。
 その娘の小さなロカは温かい食べ物をうつぶせたままのカリフに運んで小さな木杓子で口に入れてくれた。
 冷えきって野獣のようだったカリフの瞳に、少しずつ微かな光が灯ってきた。
 ロカはカリフの鋭い瞳を少しもこわがらなかった。無心にカリフを見て笑う。
 カリフがロカの笑顔を見てひとすじ涙をこぼすと、不思議そうにその涙を指でふいてくれるのだった。
 カリフがようやく上を向いて眠れるくらいに回復した頃、イーラウがやって来た。
 暖かく包み込むような深い瞳をして微笑む。
「年は15くらいか?」
 カリフはうなずいた。
「つらい想いをしてきたな・・。話したくなければ何も話さなくともいい。話したくなったらいつでもきこう。」
「・・あなたは。・・どういう人なんですか?」
 ちょうど塗り薬を持って来たベクが笑いながら言った。
「イーラウを一言で説明するのはむつかしいな。彼は何にも属していないし、何も持たない。けれどもあらゆる人間のよき隣人だ。」

 背中の傷がだいぶ癒えて、カリフはベクの手伝いをするようになった。
 だが、ほとんど口を開かず、笑うこともあまりなかった。
 ベクはからだの傷以上にカリフのこころが痛み、荒み切っていることを感じた。
 イーラウがまた島からやって来た。
 ベクはカリフが黙々と働く様子を見せた。
 イーラウはうなずいた。
「カリフ!」
 片手を上げてイーラウはカリフに微笑みかけた。
 カリフは会釈した。
「どうだね。ベクの仕事を手伝っているそうじゃないか?」
「・・。」
 カリフは返事をしない。
 眉間にしわを寄せて内側のかっとうと闘っているのが見てとれた。
「君は今の仕事に喜びを見出せないんだね?」
 小さく首を振ったが、自分の内に巣食うもつれた固まりのことをカリフは言葉にすることができなかった。
 イーラウはカリフを座らせると、カリフの肩に自分の大きな手のひらを置いた。
「かまわない。・・かまわないんだ。それで。君はまだ自分の痛みに折り合いがつけられていない。けして無理はするな。」
 カリフは思いがけないイーラウのあたたかい言葉とまなざしに、閉ざされた心からこぼれ落ちるように思わず一粒の涙を流した。
 つぶやくように言葉を口にした。
「・・ベクやロカはほんとうに人想いだ。・・心から人のことを想い、世話をしてるのがわかる。・・だけど。オレは・・。」
 イーラウは黙って待った。
 無心に、でも温かくただそこにいてカリフのすべてを受け入れていた。
 イーラウがこの世の終わりまで待ってくれることを本能的に感じ取ったカリフはついに口を開いた。
「・・世話を受けるひとたちがうらやましくて、嫉妬すら感じてしまうんだ。・・オレはここに来るまでこんなに人に大事にされてこなかった。見捨てられて生きてきたんだ。不公平だ。・・だから人が病いに苦しんでいたって、どうでもいいって思えてしまうんだ。」
 カリフはそう言って唇をかみしめて泣いた。

Story | 12:29 | comments(0) | trackbacks(0)
12*黄ランドウの原
 イーラウはカリフを港の桟橋まで連れていって、潮風を受けながら問うた。
「舟に乗ったことはあるか?」
 そっと首を振った。
「島に来てみる気はないか?」
「・・。」
「今、島には黄ランドウの花が盛りだ。見たことはあるか?」
 また首を振った。
「いつ帰ってもいい。今行かなくてもいい。ベクのところにいてもいい。どこに行ってもいい。もちろん、今行ってもいい。」
 そう言ってイーラウは唇の両端を上げた。
 風がカリフの頬を過ぎてゆく。
 海鳥が鳴いた。
 カリフはふと顔を上げて潮風を吸った。
 イーラウの顔を見た。
 イーラウはうなずいた。
「よし。それでは乗りなさい。」
 舟は帆をあげて滑り出した。
 イーラウは年をとっていたが、その腕は陽に焼けて太く力強かった。自在に帆を操り、風を掴む。
 カリフはこんな人間がいることをまだ知らなかった。
 どうしてこんなに力強い男が、イリュのようなぬくもりのある瞳をしているのだろう?
 今までに出会った男たちはみな、イーラウより若く一見強そうに腕力はあってもその瞳は暗くはかなげだった。
 湾の外は波が高かった。カリフは容赦なく上下する小舟にしがみついた。
 小さな緑の島が水平線に浮かんできた。
 その島の小さな入り江に小舟を滑り込ませるとイーラウは愉快そうに笑った。
「だいじょうぶか?」
 そう言ってカリフの手を取る。
 カリフは船酔いというのを初めて経験していた。

 イーラウは小さな小屋に案内すると火を起し、温かい飲み物を入れた椀をカリフに差し出した。
 そして自分は魚を釣る竿を削る作業を始めた。
 小屋には暖炉の火のはぜる音だけがし、窓からは波の音がしてくる。
 イーラウは何も言わない。
 カリフも何も言わない。
 けれどもカリフは不思議な感覚を味わっていた。凪いだ海のように、大木の下の木漏れ日のように心鎮まり、焚き火の炎のように温められた。これを安らぎというのだった。
 時々目が合うとイーラウはただ笑む。
 そんな日が3日過ぎた夕暮れ、カリフが口を開いた。
「・・黄ランドウって・・どこ?」
 イーラウは大きくうなずくと、カリフを伴って小屋を出た。
 小さな島の山道をほんの少し小屋から登った。

 カリフは目を見開いた。
 その光景は悠々とひろがっていた。
 そこは島の頂上で、平らに明るく開けていて、大海原がいっぺんに視界に飛び込んでくる。
 そしてそこには一面に黄色い花が咲き、海風に一斉にその花弁を揺らせているのだ。
 あの小さな小屋のすぐ上にこんな世界が開けているなんて・・。
 カリフは丸い水平線から渡って来る遥かな風と花の色に融けてしまいそうになった。
 群青色の髪をすく風。
 幼い日、カリフが洗ってくれた。
 うれしかった。
 月明かりの下、カリフと駆けた。
 生まれて初めてなくらい楽しかった。あの瞬間、たしかにしあわせだった。
 そしてイリュの微笑みとあたたかいあの手のひらが好きだった・・。
 夕陽はすべてを等しく照らし黄金色に染めあげていく。
 カリフは顔を両手で覆った。てのひらをあふれて涙が伝った。自分の背中にずっとおかれた大きなてのひらのぬくもりを感じていた。
 こみ上げる嗚咽を抑え切れずにいると、イーラウはカリフを胸に抱き寄せた。一番星に届くくらいカリフはイーラウの胸に顔を埋めて泣き続けた。
 イーラウは黙ってひなを抱くようにカリフの傷をあたため続けた。
Story | 22:50 | comments(0) | trackbacks(0)
13*釣り
 翌日からカリフはイーラウの釣りにつきあった。イーラウが削っていた新しい竿はカリフのものだった。
 釣り糸を垂れて待つ間に、カリフはイーラウにさまざまなことをたずねた。
「・・人を殺すことがなんともないどころか、それですかっとして、それで生きている人間がいた。・・オレの目はそいつらと変わらないと言われた。たしかにオレはカリフを殺した。それにオレは女将のことが心底憎いと思った。殺したいともたしかに思った。」
 イーラウは厳しい顔になって海を見つめた。
「わたしも人を殺した。」
 カリフは驚いてイーラウの目を見た。
 イーラウは瞳に深い哀しみの色をたたえてカリフの顔をじっと見返した。
「わたしの住んでいたところでは戦さがあった。たくさんの人が死んだ。長い戦さだった。代々報復しあってきた。若者はだれもが人を殺した。わたしもだ。」
「でも・・イーラウはやつらとは違う。遊びのように殺すことに喜びを感じたりはしない!それにこんなに人を安らがせる目をやつらは持っていない。」
 イーラウはカリフの腕に手を置いて制した。
「やつら・・ではない。彼ら、だ。」
 そして強い瞳をしてカリフの瞳の奥を覗き込んだ。
「分けるな。自分と人を分けるな。」
 毅然としていたが、その奥には労りと懺悔のようなものも含まれていた。
 カリフは言われたことが胸に響いた。ほんとうは奥底でわかっていたことだった。自分がもしあの時あの幼い子を、女将を殺していたら・・。殺すことに喜びを覚える人間になっていなかったか・・。
 いや、たとえ殺さなくとも、ほんとうはそういう人間じゃないのか?
 そして気がついた。
「オレを助けてくれたソンのこころではいったい何が起こったんだろう?」
 イーラウはうなずいた。
「ソンはなぜオレを助けてくれたんだろう?」
「・・君は自分が殺したカリフとして死ぬと言った。そんなことを思ったことがなかった自分をソンは初めて見たんだよ。それもとっさにだ。頭で考えることよりも、反応したものがあった。」
「それはなに?」
 イーラウはいつものあのぬくもりを瞳にたたえ、カリフの竿の先を見つめた。
 糸が引かれていた。
 赤い魚がかかっていた。
「さあ、充分だ。小屋へ引き上げよう。」

 燭台を灯したテーブルの上に湯気の立った赤い魚をのせた皿がのっている。
「祈ろう。いのちを受け取ることを。捧げてくれた魚に。与えてくれた天に。」
 そう言ってイーラウはしばし瞑目した。
 カリフはあわてて見よう見まねで祈ると、目の前の魚を見た。さっきまで生きていた。
 どうしてか涙がぽろぽろこぼれた。鼻をすすりながら魚を口にした。
「うまい・・。」
 泣きながらつぶやいた。
 イーラウは微笑んだ。

 翌日もふたりは糸を垂れた。
 堰を切ったようにカリフは口を開いた。
「・・オレがイーラウに助けてもらったあの屋敷にはエンライという金持ちが住んでる。
彼は金で人を買って人を人とも思わない仕打ちをした。そうして死んだものが何人もいるらしい。でも、表向きは慈善家の金持ちなんだ。オレが逃げ出した日の晩、彼がすすり泣くのを聞いた。ひとりでぶつぶつ言っていたんだ。まるでふたりのエンライがいるようだった。ひとりは人を道具にうっぷんを晴らすエンライ。もうひとりは自分のやったことを恐れておののいているエンライ。オレは理不尽なエンライも恐かったけれど、ふたりのエンライはもっと恐かった。それで逃げ出したんだ。・・それがあの屋敷で起こったことだ。」
 イーラウは深くうなずいた。
「人間はあんなになれるのか?あんなにも残酷に。それにオレの中にもあんなふたりのオレが現れたりすることがあるんだろうか?オレは恐ろしい。人間が恐ろしい。」
 さざ波の音が響いた。
 ずいぶん波の音を数えた頃、イーラウはかみしめるように言葉を口にした。
「ふたりどころではない・・。」
 カリフはイーラウの方を向いた。
「弱く、怠惰で、卑怯で、高慢で、意気地なしで、ずる賢く、利己的で、残酷で、醜い自分がいる。」
 カリフは言葉を失った。
「まだ挙げられる。」
 そう言ってイーラウは哀しげに笑った。
「だが・・。」
 イーラウは風のような執着のない笑顔を瞬時に浮かべると、もう一度カリフの方を見た。
「そうでない自分もいる。そうではないか?どの自分も真実だ。醜い自分もそうでない自分も。闇から目をそらしてはそうでない自分にもほんとうには出会えない。」
 カリフは釣り糸を垂らしていることも忘れて竿を流しそうになり、イーラウに竿を掴まれた。
「竿を流すな。・・自分を見失うな。たとえ荷が重かろうと。踏みとどまれ。エンライのために。女将のために。ソンのために。・・カリフのために。君のために。」
 カリフはまばたきを忘れてイーラウの顔を凝視した。
(この人は何を言っているのだろう?)
 だが、カリフは胸にイーラウの切ないほどの愛情が流れ込んでくるのを感じていた。
(これはいったいなんなんだろう?)
 その晩カリフは眠れなかった。月明かりに照らされたイーラウのしわにたたまれた寝顔を飽くことなく見つめた。
 少し、混乱したあたまを冷やすために外へ出た。だが、わけはわからずとも胸は知っていた。
 月が見ていた。潮騒がささやいた。

「イーラウ。」
 翌朝、起き上がったイーラウに一番に声をかけた。
 イーラウはこちらを見た。
「オレはイーラウと歩んでいっちゃいけないか?もっと知りたいんだ。イーラウが見ているものを。イーラウが行こうとしているところを。」
 少し間をおいてイーラウは答えた。
「わたしは何も持たない。君に与えられるものは何ひとつない。わたしはここにいて、君が、そこにいるだけだ。それでもよければそこにいればよい。」
Story | 12:36 | comments(0) | trackbacks(0)
14*イスカの会議
 その日、島に1隻の舟が着いた。
 イーラウは手を上げて友に微笑んだ。
「サリュウ、紹介しよう。カリフだ。わたしの年若い友人だ。」
「サリュウだ。イスカから来た。」
 カリフにも紹介すると小屋に招き入れた。
「イーラウ。イスカの会議に出てくれ。あなたの仲裁が要る。」
 サリュウは椅子に座る前にもう用件を切り出した。
 イーラウは答えなかった。
 ひとり開け放たれた窓に寄って佇んだ。外を向いていたが、思慮深い瞳は内に向かって何かに集中していた。
 振り返った。
「待たせた。出かけるとしよう。」
 舟の上でカリフはイーラウに尋ねた。
「何を考えていたの?窓辺で。」
 目で笑むとイーラウは答えた。
「その選択が自分のためから出たか、そうでないのかを聞いていた。」
「自分のため?」
「もし、自分のために行くならば出かけることをよしとはしない。自分のために行かぬのならばもちろんそれもよしとはしない。だが、ひとつの選択をとろうとするときに、万ほどの自分が現れる。それらを全部見た上でさらにそうではないその奥から湧くものに従う。」
 カリフは驚いた。
 それがあの少しの間に起こっていたことなのか。そしてイーラウはそれをいつもやっているというのか。
「自分のためではいけないの?」
「結果的に自分のためになっていないことなどない。だが、それは始まりではなく忘れた頃に見い出される賜物だ。それを初めに望むことでかえって自由と可能性は失われる。それは目的ではない。それが逆さまになると道のりを誤る。」
 舟は港に着いた。
 サリュウは用意していた馬車にイーラウとカリフを招き入れた。
 馬車はタスチフの中心部を通った。
 カリフは反射的に身を固くした。
 イーラウはカリフの肩に手を置いた。
 エンライの屋敷のそばを通る。
 カリフの呼吸は荒くなり、冷たい汗が流れた。イーラウの目を見た。
 イーラウはだいじょうぶだというようにうなずいた。
 馬車は立派な建物の中に入っていった。
 ここはあらゆるもめ事を仲裁する会議場で、たくさんの扉が並び、そのひとつひとつで会議が行なわれていた。その中のひとつの扉が開かれた。
 そこにいた20人程の人間が一斉に立ち上がった。
「来てくださったか、イーラウ!」
「イーラウだ!」
 サリュウは笑顔を浮かべて議長らしき年配の男と握手を交わした。
 議長はイーラウを迎え、イーラウと笑顔を交わしあいみなに向き直った。
「ここに両村が歓迎するであろうイーラウを迎えて会議が行える幸運を感謝しよう。」
 イーラウが座るのに合わせてみな座った。
 カリフはイーラウの横に座らされた。
 議長はイーラウをうながした。
 イーラウは少しも大きく振る舞うことはせず、むしろみなの一番下に立って支えるように言葉を発した。
「イスカの問題は聞かせてもらった。先日別件でここへ来た時にサリュウが話してくれた。友よ、ともにこのことに向き合っていただけるか?」
 部屋の中がたちまちひとつの空気になったのをカリフは感じた。
「ではナキム。君たちの言い分を。」
「イスカの漁場は何百年も前からおれたちの先祖が大事に守り伝えてきたものだ。それはこの漁法だったから守ってこれたんだ。これを失うわけにはいかない。」
「ハシン。」
 反対側に座る男をうながす。
「だが、おれたち漁師は減った。タスチフだって何百年前とは違う。これだけの人を賄うには竿で釣る今までの漁じゃ追いつかない。」
「おまえは儲けたいだけだ。」
 野次が飛んだ。
 イーラウはそれを手で制した。
「それはどういう漁だね?」
「網だ。大きな網を張ってそれを引き上げるんだ。おれはタスチフの人々が魚をもっと安くふんだんに食べられるようにしようと言ってるんだ。それのどこがいけない?おれたちの村はそれでまとまった。だが、ナキムたちは口をはさむ。」
「考えてもみろ。網などで根こそぎ掬うならこの湾の魚はいなくなる。おまえたちだけの海ではないぞ。網はもっと外で使うものだ。」
「だったら大きな船を造ろう。そうすれば沖へ出て網が張れる。」
 誰かが言った。
「大きな船を造る金はどうする?」
「借りるのだ。たくさん魚をとって後でかえせばよい。網ならあっという間に稼げる。」
「ほらみろ。やはり金儲けだ。」
「なに!」
「待ってくれ。」
 イーラウが仲裁した。
「ハシン。タスチフの人々は魚をもっとたくさん安く食べたいというのかね?」
「そりゃそうだろう。そう思わないものがいるか?」
「それは君がそう思っていると、そう、思ってもよいか?」
 ハシンは黙った。
 金儲けと言った男に聞いた。
「イハド。君はハシンが稼ぐことにこだわるがそれはなぜだ?」
「なぜって?金儲けはよくないことだからだ。」
「どうして金儲けはよくない?」
「それは人の心を狂わせて、人と人の仲を裂く。」
「金儲けという言葉でハシンを責めるのは、君とハシンの仲を裂くことになりはしまいか?」
 イハドははっと顔色を変えた。
「サリュウ。」
 サリュウはうなずいた。
「君の話を聞いて、わたしはイスカの漁場を見て廻った。豊かだった。そして市にも足を運んだ。そこも豊かであった。地上には魚だけでなく、麦も、トウジクも緑桃もたわわに実る。市に来ているものに問うた。魚があふれるほどあるとあなたはしあわせか?と。彼らは答えた。あればあるでしあわせだが、なければないでもしあわせだ。」
 一同はしんとイーラウの言葉を受け止めた。
「わたしはよく人に呼ばれて様々な土地におもむく。あらゆる土地にイスカと同じことがすでに起きていた。そして中にはナキムが心配する以上のことが起こっているところもある。イスカの漁場の豊かさは希なのだ。」
 ここでイーラウは言葉を切って、しみじみとイスカの人々に語りかけた。
「・・すでにある恵みは当たり前のことだろうか?ひとが欲する以上のことを先回りする必要とはなんであろうか?深く見てほしい。ここにはとても大事なことがある。ハシンたちはその大事なことを見せてくれている。ハシンはわたしであり、イハドであり、ナキムである。くれぐれもそれを忘れずに話そう。さあ、続けて。」
 だが、話を継ぐものはいなかった。
 ハシンは立ち上がってナキムに手を出した。
「・・どうやらわたしが先走っていたようだ。すまなかった。」
「われわれも君を責めることしか頭になかった。すまなかった。」
 そして一同は次々にイーラウに握手を求めた。会議は終わった。
「あなたは不思議な人だ。イーラウ。」
 カリフはイーラウとともに会議場の石段を降りながらつぶやいた。
「どうして話があんなにまとまってしまったんだ?」
「わたしはただ、わたしが見て、聞いたことを伝えただけだ。彼らが賢かったのだよ。」
 ともに横を歩くサリュウが言った。
「何世代も続いたナンタラの戦さを終わりに導いたのだもの。まず聞こうという気になるのも道理じゃないか。」
 驚いているカリフを見てサリュウは逆に驚いた。
「知らなかったのか?」

 その時、会議場に入ってくる小奇麗な身なりの男を見てカリフは一瞬にして硬直した。
 エンライだった。
 エンライは屋敷にいた頃とは印象が全く違っているカリフにはまったく気づかずにまっすぐこちらに向かって来る。
 イーラウは小刻みに震えながら立ちすくんでいるカリフの様子に気づいた。ゆっくりとエンライの方に向き直ると会釈した。
 エンライは慇懃な笑顔を浮かべ、けげんそうに問うた。
「どこかでお会いしましたかな?」
「君の行ないはその美しい服では隠せない。人を虐げることでは君は救われない。君もよくわかっているように。・・どうか君が救われるよう。」
 最後の言葉はエンライをまるでいたわるようだった。
 エンライは蒼白になって立ちすくんだ。
 イーラウはカリフをうながした。
「行こう。」
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15*弓
 カリフはイーラウに風穴を開けられてやっと息が通った。
 力が抜けた。自分の中に恐怖と報復の気持ちがうずまいて硬直していた。
「さあ、前へ進もう。」
 イーラウは力強いぬくもりのある目でカリフに微笑みかけた。
 イーラウは帰りの馬車の中で、サリュウに頼んだ。
「サリュウ。カリフに弓を教えてやってはくれまいか。」
「ああ。もちろん。イーラウが望むことができるならうれしい。」
「カリフ。サリュウはイスカの者だが、山が性に合って狩りをしている。弓は君のように闇を見たものには支えとなるかもしれない。」
 カリフにはそれがどういうことかまだわからなかったが、うなずいた。
 サリュウはそれからイーラウとカリフとともに島に渡り、しばらく小屋に寝起きすることになった。
 イーラウがあっという間にカリフに竿を削ってくれたように、サリュウはカリフの手の長さに合わせて島のサシャの木の枝でしなやかな弓を削り出した。
 そして狩人だけあって、島の山の幸をふんだんに集めて料理の腕をふるった。
 カリフはすべてが新鮮で、片時もサリュウのそばから離れなかった。
 イーラウはそれを目を細めて見つめていた。

「いいか、まず弓を引いてみろ。」
 そう言ってサリュウは白い弓をカリフに渡す。
 力をこめて引いた。細い弓は意外にも強かった。びくともしない。
 サリュウは笑った。
「弓を引こうとするからだ。こうだ。」
 そういってサリュウはまるで空に虹を描くように弓を奏でた。
 かなたの実が落ちる音がした。
 カリフの目は輝いた。
 その時、カリフはたちまち弓に魅了された。

「サリュウの弓はまるで舞うようだ。サリュウは的などまるで見てないんだ。」
 カリフは興奮して夕食のテーブルでイーラウにしゃべった。サリュウは苦笑し、イーラウは愉快そうだった。
「イーラウの前でほめるな。わたしはイーラウに教わったんだ。」
「えっ!?」
 カリフはまた老人を凝視した。
「おまえはほんとうに何ひとつ知らないんだな。」
 サリュウが嘆息しながら笑った。
「サリュウの弓はたしかにカリフの言う通りだ。」
 イーラウは高々と笑った。

 サリュウはカリフに、弓の息も鼓動もまばたきも歌声もささやきも口移しのように教えていった。
 カリフは生まれたばかりの赤子のようにすべてを吸収していった。
 夜明けからひとりでカリフは弓を稽古した。
 引けるようになり、思う方へ矢が飛ぶようになると海鳥を射た。今までこんなに何かに夢中になったことはなかった。
 海鳥の多くはそのまま海に落ちた。
 拾えた鳥を束ねてカリフは意気揚々と小屋へ帰った。
 小屋の前にイーラウが立っていた。小屋からはちょうどサリュウが出て来たところだった。
「見て!ほら!」
 そう言ってカリフは海鳥を高々と揚げた。
 ふたりとも笑わなかった。
 サリュウが飛んできた。
「何羽射た!」
「数え切れない。拾えたのはこれだけ。」
「馬鹿もの!」
 カリフの顔から笑顔が消えた。
「稽古で鳥を射るものがあるか!」
 サリュウはつらそうな顔をしてイーラウの方を向いてひざまずいた。
「わたしがいけなかったのです。」
 イーラウは初めて見るような厳しい顔をして、だが、穏やかな低い声でひと言だけ言った。
「学んだな。」
「はい。」
 カリフは自分がした何か大きな間違いがサリュウをひざまずかせたことに、感じたことのない畏れを覚えた。
 イーラウはカリフを手招きした。
 震えるような想いでそばに寄った。
「本物の狩人は生きるためだけの最低の狩りをする。サリュウは順序を誤ったのだ。そのこころを先に伝えるべきであった。」
 カリフはひざまずいた。涙がこぼれた。
「君も学んだ。狩りというのは無条件に人を駆り立てるものなのだ。理屈はない。たとえ釣った魚に涙した日があったとしても、それを押し留めるものではない。ハシンの心もそこから来ていた。コギもそうだ。エンライもだ。これが人と自分を分けることはできないということだ。」
 カリフはこころの底の方から溢れて来る涙に暮れた。
 イーラウはこれ以上ないというような思いやりに満ちた穏やかな声を響かせた。
「さあ、小屋に入ろう。食事にしよう。」

 カリフは落ち込んだ。ほとんど食事に口をつけることが出来ず、ひとりで小屋を出た。
 生まれて初めて出会った、心から尊敬できる人のこころを裏切るようなことをしたことが情けなく、恥ずかしく、顔向けが出来なかった。
 サリュウは自身もそうであったがすぐにそれを糧に立ち上がった。
 ひとりで黄ランドウの原に立つカリフのそばに、弓を持ってサリュウは立った。
「さあ、今だ。おまえが今見ているおまえの闇を見逃すな。わたしもともに自分の闇を見る。わたしがイーラウから教わったのはこのことなのだ。それが弓を弓以上の弓にする。」
 カリフはサリュウの瞳に支えられて弓を手に取った。
「全部見よ。全部だ。逃げるな。1歩もだ。」
 カリフは残酷で浅はかで野蛮で非力で思い上がった自分を全部受け止めた。
 射落とされた海鳥への懺悔が潮が満ちるようにやって来た。
 小さな小さな砂粒よりもさらに小さな自分が何かに手を取られ、白い弓は大きく引かれた。
 カリフは矢が白く光る道筋を通って自らの深い闇の向こうへと走るのを見た。
 500フィードはあろうかというかなたのサシャの大木にそれは吸い込まれた。
 サリュウはカリフの肩をたたいた。
「それだ。」
 そういってカリフを小屋へうながした。
「すまなかった。忘れるな。」
 サリュウはそののちふた晩過ごすと帰っていった。
 カリフはサリュウが帰ってからもひとりで弓の稽古を続けた。
 的に当てることよりも、自分の闇を見逃さぬことを精進した。
 カリフの瞳は少しづつ澄んだ深い色を帯びるようになっていった。
Story | 12:15 | comments(0) | trackbacks(1)
16*ナンタラの戦さ
 イーラウの元へは時々相談事が持ち込まれる。
 イーラウはいつものように窓辺で自分をみつめ、時には出かけることをやめ、時には出かけていった。
 カリフはその度に供をした。
 カリフがイーラウの元に来てから3年の時が経とうとしていた。

「カリフ!」
「はい!」
「わたしはナンタラに立つ。行くなら君も支度したまえ。」
「はい。ナンタラとはどこにあるのですか?」
「ここよりさらに遠い沖にある大きな島だ。一度タスチフに渡って帆船に乗る。」
「なぜナンタラへ?」
「古い友が世を去ろうとしている。別れを惜しむのだ。」
 タスチフは大きな港なので長距離の帆船も寄港する。
 イーラウとカリフは帆船に乗り込むと、甲板から遠ざかりゆくタスチフの街を眺めた。
「いつの頃からの友なのですか?」
 カリフの問いにイーラウは口元を緩ませた。
「君の倍くらいの年の頃だ。わたしたちは敵同志だった。」
「敵?」
「話したことがあるだろう。わたしたちは代々報復しあっていた。わたしの父は彼の叔父に殺された。彼の兄はわたしの従兄が殺した。」
「ナンタラの戦さ?」
 イーラウはうなずいた。
「わたしはサイの一族を皆殺しにすることだけを考えて剣の腕を磨き、弓を精進した。」
 カリフは息を飲んだ。
「ひどい戦さだったよ。10年うなされた。忘れることはできない。わたしは目の前で父を殺され、サイは目の前で兄を殺されたんだ。」
「でも今、友なのですか?」
「そんなことは希有かもしれない。だが、ここにこうしてたしかにそれはある。だからひとは希望なのだ。生とは希望なのだ。」
「話してもらえますか?」
「ああ。」
 そうしてイーラウの昔語りは始まった。
 
 イーラウは父を亡くし、一族の長として立たざるを得なかった。
 30歳を過ぎていた。妻を娶るよゆうはなかった。
 みな、疲弊していた。憎しみだけが彼らを支えるものだった。
「イーラウ。コバネで戦おう。決着をつけるのだ。」
 仲間が言った。サイの一族が天幕を張るコバネの丘のことだった。
 畑を踏みにじられ、家族を殺され、山に潜むイーラウたちにはもう失うものはなかった。それはもう何世代もの間イーラウの一族とサイの一族の間で繰り返されてきたことだった。
「今夜、夜討ちをかける。みな、休んでおけ。」
 イーラウは木の根で休む仲間たちに声をかけ、ひとり水浴するため滝へと向かった。
 最期の戦いになるかもしれないと思っていた。
 山の奥深く、知る者のあまりないその滝は、父が教えてくれた。父に祈り、自分を清めるつもりで滝つぼに入った。
 全身で潜って、一気に水面に上がるとすぐに岸に上がった。
 その時、山犬のうなる声がした。
 岩陰に置いていた剣をとる間もなく、茂みから山犬が走って現れ、イーラウに飛びかかった。すんでのところで身をかわした。
 イーラウは山犬が怪我を負っているのに気がついた。その時、茂みが大きく揺れ、血だらけの人間が姿を現わした。
 興奮仕切った山犬はまたイーラウを襲う。
 男がイーラウを救おうと大きく剣を振るって山犬に斬りつけたが、今度はその男に向かっていく。
 イーラウはそのすきにすばやく剣を取ると山犬に斬りつけた。山犬はひと声高く悲鳴をあげて逃げていった。
 後に残された男はその場にうずくまった。
 剣を持ったままイーラウは問うた。
「誰だ?」
 見ない顔だった。まだ若い。
「イーラウ!」
 仲間のアパンが駆け寄って来た。
「ひとりで動くな!どこに敵がいるか分からない。誰だこいつは!」
「サイの者か?名はなんという?」
「・・オーネン・・。」
 オーネンは痛みを押し殺した声を出した。
「山犬に襲われたな。大方物見だろう。この傷ならほっておけばくたばる。行こう!」
「待て。」
 イーラウは気になった。オーネンの瞳がやけに澄んでいたからだ。
「・・あなたがイーラウか?ゼクの息子の。」
 父の名を言われてイーラウはしゃがんだ。
「それがどうした。」
「・・ゼクは立派な最後だった。それだけだ。」
 イーラウは押し黙った。サイの者に父をほめられるとは。
「あの時、いたのか?」
「・・ああ。・・戦さのないところに生まれたかった・・。わたしは・・今度生まれ変わったら司祭になって・・祈ることがしたい・・。」
 そう言ってオーネンは意識を失った。
 イーラウもアパンも黙った。
 そのままにしてみなのところへと戻り出した。
「サイの者もあんなことを思っているのか・・。オレたちと同じだ。」
 アパンがやり切れないという風につぶやいた。
「ああ。この輪はいつから回り出したのだろうな・・。・・誰も止めることができない・・。」
 そう言ったとたん、イーラウは自分の口にした言葉にひそかに衝撃を覚えて立ち止まった。
 アパンが不審そうな顔をして振り返った。
 なにかがイーラウの奥深くにまるで流れ星のように走った。
 それが何かをつかまえようとしてイーラウは耳を澄ませた。
「イーラウ?」
「・・アパン。・・わたしはそう思っていた。ずっと。これは誰にも止めることはできない。」
「そうだ。その通りだ。」
「・・アパン。わたしは死んでもいいか?」
「イーラウ、何を言う?」
「わたしは今夜の戦さで死ぬために滝に入ったのだ。そうであった。」
「・・。」
「わたしはもう死んだのだ。では、わたしの死を何に捧げても自由だ。」
「?・・イーラウ?」
「この輪に捧げよう。」
 そう言うとイーラウは元来た道を滝へと引き返した。
 オーネンの手当てをした。そして、オーネンを背負ってみなの元へともどった。
「イーラウ?」
「それは誰だ?」
「サイのオーネンだ!生け捕りにしたのか?」
 オーネンは浅い息をして木にもたれて座り込み、蒼い顔でみなの顔を見ていた。
「みな、聞いてくれ。」
 イーラウは重みのある声でみなを制した。
 みなが注目したのを確認すると静かだが揺るぎない声を発した。
「もう、戦うことをやめにしないか?」
「えっ!」
「どういうことだ?」
「怖じ気づいたのか!」
「積年の恨みを忘れたのか!」
 イーラウは黙ってひとりひとりの目を見つめ、それから言葉をひとことずつそのひとりひとりのこころに向けてかみしめるように口にした。
「わたしは父も母も兄も姉も妹も祖母もサイの一族に殺された。そして、わたしは報復を誓って彼らを殺し続けてきた。それは君もそうだ。アパン。ヨギ。ここにいるものでそうでないものはいるか?」
 みな黙った。
「わたしは今宵の戦さで死ぬことを誓って滝に行った。今ここにいるわたしはすでに死んだものと思って話を聞いてくれ。」
 そして続けた。
「大事なものを殺され、破壊されたこの気持ちはわれわれだけが持っているものか?」
「やつらが始めたのだ。やつらが滅ぼされることこそ天の意であり、われわれはそのために戦っている。悪いことをしたものに報いがくることが天の理だ。」
「ならばわれわれは誰が裁く?」
「われわれは虐げられたのだ。裁かれるのはやつらだ。天に替わってやつらをわれわれが裁くのだ。」
「そしてそれを果たして、わたしたちはしあわせになれるのか?」
「そうだ。」
 イーラウは他の者にも聞いた。
「そうか?」
「ほんとうにそう思うか?」
「どうするというのだ!イーラウ!」
「第三の道をいくのだ。」
「第三?」
「虐げられることはもうたくさんだ。だが、相手を虐げることももう充分疲れ果てた。この胸の奥に澱のように溜まったものを見よ。」
 みな一瞬黙った。
「わたしは明日、オーネンをコバネに送りサイと話す。この永遠の鎖からともに解き放たれたいか、胸襟を割って話そうと思う。」
「馬鹿な!殺されるのがおちだ!」
「憎しみ合って死ぬのか、それともそうではなく死ぬのか、の違いだ。」
「オレたちを見捨てるのか?」
「いや。もう、みながこれ以上憎しみに苦しむ手助けはしたくない。」
「勝手だ!それでも長か!」
 静かだったイーラウはそこで地に響くような声を張り上げた。
「ならば今わたしの首をはねるか!わたしの屍を超えてさらに永遠の憎しみに生きるか!」
 場は静けさに包まれ、そして鎮まった。
「・・イーラウ。」
 木の根元から声が響いた。
 オーネンが声を発していた。
「・・わたしもサイを説得しよう。もう、戦さはたくさんだ。」
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17*コバネの丘
 翌朝、イーラウは枝を組んで作った担荷にオーネンをのせ、担荷を運ぶふたりだけを連れてコバネの丘に向かった。
 サイの者たちが剣や弓を構えるのをオーネンが手を挙げて制した。
 人々の声に、ひときわ大きな天幕からサイが姿を現わした。40過ぎの壮年のずんぐりとした男は毛深い顔の真ん中に底知れぬ鋭い瞳を埋めてこちらを見ていた。
「オーネン。」
 サイは担荷の上の若者に声をかけた。
 オーネンは手を挙げるとサイに告げた。
「サイ。ゼクのイーラウです。サイと腹を割って話したいと言っています。」
「何を話すことがある。おまえは捕らわれたのか?」
「山犬に襲われたのです。イーラウが手当てしてくれました。」
「イーラウならば長だ。降伏にきたのか?」
「そうではない。話をしにきたのだ。」
 イーラウが言うと、サイの兵士から失笑がもれた。
「戦さの最中に丸腰で話をしにくる長があるか。イーラウは首を捧げにきたか。ではこれでもう戦さは終わりだ。おまえたちが滅ぼされてな。」
 その時、屈強な男たちの間から、サイとイーラウの間に小さな老婆が腰をかがめてたどたどしく歩んできて杖をついて揺れながら立った。
「どかんか、おばあ。じゃまだ。」
 誰かが言うと老婆は言った。
「どかん。」
「あっちへ行っておれ。」
「行かん。行けばぬしらはこの丸腰の青二才に何をするかわからん。青ニ才がいのちをかけておるのに、生き過ぎたごくつぶしがのうのうと生きのびるわけにはいかんじゃろ。わしもかける。の、サイ。おまえは青ニ才のふるまいに怖じ気づいて丸腰の者を手にかけた意気地なしの卑怯ものとそしられたいか?」
「ばあ。」
 サイはため息をついてうるさそうに言った。
「向こうへ行っておれ。」
 ひとだかりの向こうから男たちの間をすりぬけて女たちがばあの周りに集まって来た。
「なんだおまえらは。向こうへ行け。」
「行かぬ。」
「なに?」
「ばあは歩くのもやっとで立つのもやっとでここに立っている。わたしらが支えずに誰が支える。」
 サイはじっと女たちを見た。しばらく黙っていたが、イーラウに顔を向けると言った。
「話とはなんだ?」
「戦さを終わりにしよう。」
 イーラウはばあの面影に自分の祖母の面影を見ながら言った。
「それは簡単だ。おまえらが降伏すればよい。」
「わたしたちは降伏はしない。あなたたちに降伏ももとめない。ただ、止めるのだ。」
「それではここにいる者たちの報復の想いは果たせない。わたし自身の想いもだ。われわれはどちらかが地上から消えるしかないのだ。」
「わたしたちはいずれ死ぬのだ。同じ消えるにしても、憎しみ合ってそれを残される者にさらに負わせるのと、憎しみを捨てて同じ痛みを抱える者同志として同胞として死ぬのとでは天と地ほどの開きがある。どちらがわれわれにとっての幸福なのだ?長には仲間を幸福にする責任がある。」
 オーネンが担荷の上で痛みに顔をしかめながら起き上がった。
「わたしは見た。イーラウは仲間に同じことを詰め寄られた。だが、イーラウは言った。
みながこれ以上憎しみに苦しむ手助けはしたくないと。戦うなら自分の首をとってその屍を超えてゆけと。彼らは黙った。そしてイーラウをここへと行かせた。わたしはイーラウを殺して戦さを終わりにするために送り込まれた。だが、敵ながらまともな考えだと思った。これにどう答えるかでサイの一族は後世に語り継がれるか、そしられるかが決まるだろう。これはひととしての誇りをかけるかどうかなのだ。」
 サイは黙った。腕を組んで後ろを向いた。
 そして1歩、2歩、と歩んだ。向きを変えてまた1歩、2歩。
 もう1歩、2歩歩んで立ち止まった。
 イーラウの方を振り向くと、自分の腰の剣をすばやく抜いた。冷徹で強腕といわれるサイの剣はひときわ大振りで切っ先鋭かった。
 イーラウの腕に剣の先を当てると言った。
「口だけではなんとでも言える。おまえの誠意というものを切り取ってもよいか?そのかわりにわたしも切り取ろう。わたしは長としてわれわれの死んだ者への供養が要る。」
 イーラウは冷たい汗をひと粒垂らしながらうなずいた。
 止めようとするばあを兵士が抑えた。
 サイは大きく振りかぶって風をうならせて剣を振るった。
 ばあや女たちは顔を伏せた。
 イーラウの茶色い髪が散った。
 サイの鋭い瞳の奥がやわらかく光った。にやりと笑みを浮かべると、今度は自分の髪を掴んで剣でぶつりと切った。
 それをイーラウに突き出した。
「受け取れ。戦さは終わりだ。」
 人垣はどよめいた。
「おまえ、目を閉じなかったな?」
 サイはイーラウに声をかけた。
 イーラウは汗をぬぐった。そして、
「ああ。やっとな。」
 と答え、笑った。
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18*サイの涙
「オーネンはナンタラを出て司祭になった。自分が思っていたよりもずっと早く生まれ変われたのだ。」
 そう言ってイーラウはうれしそうに笑った。
「ではこれから会いに行く友というのは?」
 カリフは問うた。
「サイだ。」
「そうやってイーラウはナンタラの戦さを終わりに導いたのですね。」
「勘違いしないでくれ。」
「?」
「わたしが終わりにしたのではない。受け入れたわたしの仲間と、オーネンとコバネのおばあと女たちと、そしてサイと、サイの者たちがあってのことだ。誰もひとりでは何もできない。」
 その時、
「コバネのおばあとはなつかしい。」
 そう言う声がした。
「おお!」
 イーラウの顔がはじけた。
 甲板でこちらを見て微笑む男がいた。
 その慈愛に満ちた笑みを浮かべた初老の男とイーラウは抱きあった。
「紹介しよう。オーネンだ。こちらはわたしの若き友人のカリフ。」
 オーネンは目を細めてカリフに手を差し出した。
 カリフは目を輝かせてオーネンと握手した。
「今、お話を聞いたばかりです。」
 オーネンは目元を緩ませてうなずくと、イーラウに向かって言った。
「あなたもサイのところへ?」
「そうだ。聞いたか?」
「年月というのは長いようで早い。でも、わたしたちは誰もがこんなに長く生きるとは思っていなかった。」
 イーラウはうなずいた。

 ナンタラの港が見えて来た。タスチフよりは小さいが、豊かな港だった。
 イーラウとオーネンとカリフは、桟橋で声をかけられた。
「イーラウ様。オーネン様。お迎えにあがりました。」
 ナンタラの紋章のついた立派な馬車で、3人は街の東のはずれの緑の丘へと運ばれた。そこにはナンタラ首長であるサイの公邸がある。
 案内人に公邸の一番奥まった場所へと導かれた。扉が開かれてそこには幾人かの人の囲む寝台がある。
 案内人が寝台に横たわる首長の耳にささやいた。
 首長は震える手を差し出した。
 イーラウはその手を力強くにぎりしめた。
「サイ。イーラウだ。勇気と決断に満ちたあなたと出会えたことを誇りに思う。あなたがいたからナンタラの戦さは終わったのだ。そのことは後世に語り継がれるだろう。あなたは生き続ける。」
「・・イーラウ・・。」
 かつての猛者の面影は影をひそめ、サイの年月にたたまれたしわの奥の小さな瞳は穏やかに灯っていた。
「・・きみのおかげだ。きみのおかげで今おだやかにゆくことができる。・・こころから礼を言う。・・みなを憎しみの連鎖から遠ざけることができた。・・そのことがこの生の終わりになによりもうれしい。・・ほかにはなにもいらない。・・きみがあのとき言っていたことばが今わかる。報復ではこのように幸福には死ねない。ありがとう。ほんとうにありがとう・・。」
 そう言ってサイはイーラウの手をにぎって涙を一筋流した。
 オーネンもサイの手のひらの上に手を重ねた。
「サイ。オーネンです。わたしはあなたのためにこころから祈ります。わたしが祈ることができるのはあなたのおかげです。」
 サイは涙を流しながらうなずいた。
「・・これでわたしはわたしが殺した者たちの元へ行って謝ることができる。この幸福を味わえなかった者たちへ。・・ああ、大きな輪であった・・。大きく、重い、輪であった・・。」
 そう言ってサイは目を閉じた。
 サイはこののち3日間眠り続け、そしてこの世を去った。
 サイを惜しむ市民の列は夜中まで尽きることがなかった。サイの首長としての人徳が偲ばれた。
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19*フェド
 イーラウが来ているという報は島中に伝わり、イーラウの元にはひっきりなしに人が訪れた。
 カリフはオーネンに連れられて、島を案内された。 
「コバネのおばあとはどういう人だったのですか?」
「どこにでもいるふつうのおばあだ。子を育み、子を亡くして痛み、戦さを嫌ったただのおばあだ。おばあの孫が森にいる。会ってみるか?」
 カリフはうなずいた。
 オーネンは丘を超えて原を過ぎ、美しい沼のある森へと分け入った。
「孫のクナウは炭焼きの夫とここに住んでいる。」
 樹々の間にまるであたかも樹のようになじんで建っている小さな小屋があった。
 ふたりがそこへ近づいたとき、どこからか笛の音が聞こえてきた。
「竜笛だな。」
 オーネンはつぶやくと、小屋の扉をたたいた。中から小柄な銀髪の女性が姿を現わした。コバネのおばあとはきっとこういう人だったのだろうと思わせる。
 クナウは機嫌よくふたりを中へ導き入れてお茶をふるまった。
「息災でいたか?炭焼きの方はどうだ?」
「ええ。おかげさんで戦さがなければ森も豊かで暮らしに困ることはない。コバネは穏やかでいい土地さ。」
 その時、扉が開いてカリフと同じ年頃の娘が姿を現わし、客を見て少し驚いた様子を見せた。
「フェド。おいで。オーネンだよ。話を聞かせたことがあるだろう。」
 そう言って娘を招き寄せる。
「わたしの孫娘のフェド。少し人見知りをする。オーネンとカリフに挨拶を。」
 うながされてフェドはおずおずとふたりに手を伸ばした。
 オーネンはその手を両手で包むように優しくとって微笑んだ。フェドはその微笑みにやっと心を許したようにかすかに笑みを返した。
 カリフはとまどった。同じ年頃の娘と面と向かったことがなかったのだ。
 オーネンにうながされてカリフもおずおずとフェドの手をとった。
 フェドはもう一度恥ずかしそうに笑った。
「カリフがコバネのおばあはどういう人だったのだ?と聞くのでここへ連れてきたのだ。クナウ。話してやってくれ。」
「ああ、ナンタラの戦さのことは聞いたのかい?」
「はい。」
「わたしはその頃あんたくらいだったが、わたしの父も亡くなった。おばあは息子であるわたしの父が亡くなっていつも嘆いていた。誰がこの戦さを始めたのだ、この戦さはいつまでつづくのだ、と。そこへあの戦さの終わりが訪れたのだよ。」
 カリフはうなずいた。
「イーラウはまるで黒鹿のような静かな目をしていた。なにしろゼクの一族は血も涙もない人でなしと聞かされて育ったのだから、わたしたちも驚いたね。おばあは後で言っていた。あの時、闘う相手ではなく初めて生身のゼクの一族を見たのだと。そして、自分の息子の若い頃にイーラウはどことなく似ていたと。あれが自分の息子だったらとたまらなくなったのだと。」
 オーネンが言葉を継いだ。
「そういえば、わたしはそれがイーラウだと知らずに山犬に襲われるイーラウをつい助けようとした。あの時は敵だと判断するひまもなかった。そんな時、敵味方の区別を超えてひとりとひとりでしかない。わたしたちはお互いのことを知らなさ過ぎたのだ。そして自分達と敵という風に線を引き過ぎたのだ。」
「もちろん、それまでの痛みの歴史が双方の恐れや怒りを駆り立てていたんだよ。」
 オーネンはうなずいた。
 クナウは続けた。
「おばあはそれからほどなくして亡くなったが、とても安らかだった。働き者で、面倒見のいいおばあだった。自分のことはいつも最後で、人が来ると家族の食べるものがなくともご馳走した。それにしてもよくも長にあれだけのことを言ったと思うよ。首がいくつあったって足りない。だけど、息子が亡くなってからのおばあはもうすでに死んでいたんだ。いつ死んでもいいと思っていたんだ。サイに小言を言うのはおばあくらいだった。サイはまるで自分のおばあのように苦笑しながら聞いてくれた。みんなのおばあだった。コバネのおばあと呼ばれるのがその証拠さ。」
 誇らし気にクナウは笑った。そして、カリフの瞳をやわらかいまなざしでじっとのぞき込むと言った。
「おばあの最後の言葉を伝えよう。『見上げればみんな花だった。』」
「?」
「よろこびも怒りも哀しみも、死ぬよりつらいような苦しみも、すべて過ぎゆき世を去ろうとする時、見上げてみればすべてこの世の花だった、という意味さ。うつむいた心ではそう見えなかったろうね。」
「見上げれば・・。」
 カリフはつぶやいた。
 クナウとオーネンはそれから昔語りに花を咲かせた。オーネンはフェドに、カリフにコバネを見せてやってくれと頼んだ。
 若いふたりは外へ出て歩いた。
「どこから来たの?」
「・・タスチフのそばの小島。」
「そこで生まれたの?」
「遠い北の峯の小さな村だ。」
「家族は?」
「・・。」
 答えないカリフにフェドは少しあわてて、うつくしい沼の方を指した。
「あの沼のほとりにセキシンの巣があるの。ひながいる。見に行く?」
 カリフはうなずいた。
 鏡のようにしんと静まった沼のほとりのヨシュの葉の影に枝で組まれた小さな巣があった。ひなが身を寄せあっておとなしく親鳥の帰りを待っていた。
「かわいいでしょう?」
 うなずきながらカリフはフェドの笑う横顔から目が離せなかった。初めて会った時からそこに遠い日の面影を見ていた。フェドは笑うとイリュにどことなく似ていた。
「なに?」
「いや・・。」
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20*竜笛
 小屋へもどるとオーネンが手をあげて待っていた。
「そろそろもどろう。サイの葬儀がある。」
 オーネンとカリフはクナウとフェドに別れを告げ、ナンタラの街へともどっていった。
 サイの葬儀は盛大に執り行われることになった。だがそれは市民の間から湧き起こったもので、心のこもった別れの催しだった。
 サイの棺はナンタラの戦さを終わらせた功績を讃えてコバネの丘に葬られることになった。
 オーネンも含めて司祭たちが祈りを捧げ、街の人々もそれに習う。
 そしていよいよナンタラの首長公邸を棺が出発した。
 その時だった。どこからともなくうつくしい笛の音が響き渡った。
 それはなんとも遥かな音で、切なさと希望を合わせ持ち、まるで天空のかなたから届くようだった。
「あの笛は?」
 カリフはかたわらのイーラウを見た。
「竜笛だ。天と地を結び、竜が舞うと言われる笛だ。」
 カリフはその笛の音にこころを奪われた。
「どこで吹いているのだろう?」
 イーラウは公邸のテラスを指した。
「いい吹き手だ。」
 カリフはそちらに首をまわしてあっと声をあげた。
 フェドが白い服を来て竜笛を吹いていた。
 竜笛はサイの生涯をいとしみ、この地上へと遣わした者の元へと送る。
 サイをコバネの丘に送り、埋葬するまで葬列につき従ってそれはずっと吹かれ続けた。
 カリフは埋葬が済んで帰り始めた人々の中にフェドを探した。
 やっと見つけたその竜笛の吹き手に思わず声をかけた。
「いい音だ。初めて聞いた。」
 フェドはふっと笑ってうなずいた。
「誰に習ったんだ?」
「父さんは竜笛の吹き手だったから。祀りの時はいつも吹いていた。わたしはこの笛が好きで小さい頃から習ったわ。」
「オレも吹いてみたい・・。君の父さんに習えないだろうか?」
「父さんは3年前に死んだわ。」
「そうか・・。」
 フェドはカリフの様子を見てとるとおずおずと申し出た。
「わたしでよければ教えてあげましょうか?」
 カリフは目を輝かせた。
「ほんとうに?」
 カリフが初めてほんとに笑ったのを見て、フェドは笑ってうなずいた。
 
 イーラウとオーネンはナンタラの人々との再会をゆっくり味わってゆくことにした。
 カリフはしばらくコバネの丘で、森で、沼で、フェドに竜笛の手ほどきを受けることができた。
 フェドは自分の何本か持っている竜笛のうち1本をカリフにゆずってくれた。
 そして息の入れ方、指の使い方をしんぼう強く何度も繰り返して教えてくれた。
 カリフはすぐに夢中になったが、一番好きなのはフェドの竜笛を聞くことだった。
 どうしてか、聞く度に心揺さぶられる。
 カリフはフェドに悟られないよう、にじんでくる涙をそっとぬぐった。

 ひと月した頃、イーラウがカリフに告げた。
「さあ。帰るぞ。」
「・・はい。」
 イーラウはカリフの顔を覗き込むと、
「いいのか?」
 と微笑んだ。
「はい。」
 そう言ってカリフは腰に差した竜笛をにぎりしめた。
「残らなくてもいいんだな?」
 オーネンがやはり微笑みながら念を押す。
 カリフは不機嫌そうにわざと早口に答えた。
「オレはまだまだイーラウの元で学ばなくちゃいけない。もちろん行きます。」
 ふたりはうなずいてカリフとともに滞在した首長公邸を後にした。

 島にもどるとカリフの日課に竜笛が加わった。
 黄ランドウの緑の原で海を見ながら竜笛を鳴らすと、まるで自分が風になったかのような錯覚をおこすことがあった。それがカリフはとても好きになった。
 フェドの音にはかなわないが、竜笛を吹く度にフェドの音色と面影を思い出した。

 ナンタラから帰ってから、イーラウは少しずつ舟の操り方をカリフに教えるようになった。
「舟は自分で走るものではない。風が走らせてくれる。乗り手のすることは風の意図を読み、風のために帆を用意することだ。」
 思ったよりも腕の筋肉を使った。帆を自在に操るというのは全身と全霊を使う作業だった。
 イーラウが年よりも若く元気なのは、いつも舟を操っているからだとカリフは納得せざるを得なかった。
「風はつかまえようとしてもつかまらない。風の一部になってただともに滑るだけだ。」
 舟はただ舟であるだけではなく、カリフに多くのことを教えてくれた。
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